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会計の力で企業を支える…山内真理氏が“カルチャ-・エンタメ”専門の事務所を作った想い

スタートアップの経営者が抱える課題のひとつが、お金の管理です。適切にマネジメントできれば、事業成長につながります。今回、カルチャー・エンタメを領域に会計・税務・財務等の専門性を生かして経営支援を行う、公認会計士山内真理事務所/株式会社THNKアドバイザリー代表の山内真理氏に、文化や芸術を主な領域とした起業の背景や経理の重要性などについて伺いました。

公認会計士山内真理事務所/株式会社THNKアドバイザリー代表 山内真理 氏(公認会計士・税理士)

一橋大学経済学部を卒業後、有限責任監査法人トーマツにて法定監査やIPO支援などに従事。2011年にアート・カルチャーを専門領域とする現在の会計事務所を設立した。経営支援を通じ、文化・芸術や創造的活動を下支えするとともに、文化経営の担い手と並走するペースメーカー兼アクセラレータとなることを目指す。2019年株式会社THNKアドバイザリーを設立。

文化芸術に関わる同世代から刺激を受けて

―― まず、公認会計士・税理士のキャリアを目指された理由をお聞かせいただけますか。

わたしは文系なのですが、数字が苦手ではなかったので、数字を使った仕事が向いていると思っていました。大学も一橋大学経済学部だったので、専門性のある仕事として会計士に目が留まりました。

ただ当時は、多様なフィールドへ会計士が行く時代ではありませんでした。主な仕事は監査でしたが、私はそれに興味がなくて(笑)。それよりも会計の専門性を使って会社の経営に関わることに興味を持っていました。そういうことにチャレンジしようと、20歳頃に会計士の資格を取ろうと思ったことが、今につながる始まりだったように思います。

―― 経営の支援がしてみたいと思うまでに、何かあったのでしょうか。

もともと、わたしは独立をして事業をやりたいという感覚がありました。身内が商売をやっている家系ではないのですが、進学した大学は商科系の大学として歴史があり、面白い授業がたくさんありました。ビジネスの勉強で、ブランディングやマーケティングがテーマのゼミに入ると、自然とクリエイティブな発想が得意な学生に囲まれ、ロジカルな会計と真逆の思考を持った友人たちから受けた刺激も大きかったです。

加えて、他の人がやらないことをやりたいという欲求もありました。学生時代の経験が少しずつ、面白いものを生み出す人たちのサポートがしたいという想いを強くしていきました。

―― 大学卒業後はトーマツに就職をされました。業務を通じ、独立を見据えて知見を蓄えることを意識されたのですか。

トーマツには独立志向が高い方が多そうだったので入社をしましたが、業務はもちろん、仕事外で受けた影響も大きかったです。20代後半の頃、友人にクリエイターやアートディレクター、デザイナーをやっている方が多くて、会話をしていると、そういう方たちは自分が面白いと思うことに熱中するがあまり、お金の管理に手が回っていない方や管理の苦手な方が多いことに気づきました。数字を使って経営を支援すれば相乗効果で事業として広がりが生まれる。自分の専門性を使って、クリエイティブな仕事をしている職種の方々のサポートをしたいという想いは、プライベートの人間関係からより強くなっていきました。

その後、30歳前にArts and Lawという非営利活動を行う団体との出会いにも影響を受けました。同世代の弁護士の卵がアーティストやクリエイターを法的にサポートしている団体で、彼ら彼女たちの多くはアートやカルチャーが好きで、知的財産権など専門領域を強みにして文化支援をする環境を作っていました。私のビジョンとも近く、今も理事として携わっています。

一方で、私のいる会計の分野ではそういった環境はありませんでした。そこで、自分の分野でもクリエイティブな職種の方々の支援ができる事務所を作り、ビジネスとして軌道に乗せたいと思ったのをきっかけに、2011年の起業に向かっていきました。

―― 2011年は東日本大震災があった年ですよね。

そうですね。震災が起こるとは思っていなかったので、計画していた2011年3月に退職しました。もともと芸術活動をしていたわけではありません。アートやカルチャー領域に確固たるつながりも無い中での起業で、その領域が好きでサポートしたいという想いだけでの独立でした。

当時は震災の影響で文化芸術の世界もイベントや公演などの中止が相次ぎ、制作者が投じた費用を回収する機会が無くなって、危機的な状況が増えていきました。そのような流れもあり経理体制の整備や資金調達をして乗り越えようと、制作者たちの目が向いた結果、私たちが受ける相談も多くなっていきました。目の前の困っている人を助けようという想いで仕事をしていたら、少しずつ事業になっていった。そんな創業期でしたね。

クリエイティブ産業に「会計の力が役立つ」と思う理由

―― お金の管理が苦手なクリエイターやカルチャー領域などの経営者に対して、経理の大切さを理解いただくため、どんなコミュニケーションをされているのですか。

創業期や成長期の経営者の皆さんはお金だけでは無く、管理部門に目が向かない方が多く、そこで失敗をされる方も多いです。資金調達ができても会社の経営を数字で把握できておらず、使い方に無駄が発生してしまい、売り上げは伸びるが損失も伸びてしまうという状況に陥ってしまいます。

その経験から学んで、管理部門の整備へ動き出す経営者はいますが、すぐに動き出せない方もいます。私たちは経営者に積極的に働きかけ、意思決定をするための視点や仕組みを提供しています。外部だからこそ言い続けることができるんですね。

アート・カルチャー領域は、クリエイターが社長になって、自分の作りたいものを表現して世に認められた先に、ビジネスとして成立させたいと考える方が多いです。そのため、コスト負担が増えても良いものを作りたいという考えがあり、持続可能なビジネスとしての折り合いをつけながら、苦労して自分の成功パターンを見つけていきます。

正解が1つではないからこそ、会計の力が役立つと思うんです。会社の状況を数字で計測できますし、その内容から課題を分析してフィードバックもできます。会社を良くするために、何かに気づけるようになることは経営者にとって有益ですし、私たちも一生懸命やってお客様の事業成長につながるとやりがいになります。

―― アート・カルチャー領域を事業の対象としていますが、様々なジャンルがあるかと思います。山内さんの事務所の強みはどういったものがあるでしょうか。

多様なジャンルがある中で、私たちがユニークに取り組んでいるニッチな得意分野としては、主に2つあります。ひとつは、著作権が絡む分野です。例えば作家さんの著作権に関する相続のご相談があります。事業承継の課題と関わってきますが、税務・会計の専門職のほか法律家を招いてチームを組んで対応しています。

もう一つは、著作権が絡んだときに税務、ビジネス、会計でそれぞれどう対応するべきかを総合的に判断して、専門家と協業して問題解決ができるのも強みです。たとえば日本を代表する美術家の方や漫画家の方の活動をサポートしているなどの実績もあります。

その他には、創業期から取り組んでいる美術領域では、コレクターが所有している美術品を評価して、後世にどうやって残していくかという、文化的支援の意味合いが強く、一般的に取り扱いが難しいとされる仕事も行っています。社会的に美術品が保全されて、利活用されるために何をやるべきかを思い立っても、誰にどう相談していいか分からないまま時が過ぎることがあるため、それに対応しております。

事業成長の土台は、経理システムの仕組み化にあり

―― 千代田CULTURE x TECH(千代田カルチャーxテック/以下CCT)には、専門家パートナーとして参加いただいております。起業された方や起業を検討している方など通常メンバーに対して、御社がご紹介できるサービスは何かありますか。

最近の取り組みとして「THNK経理代行」(リンクは外部サイト)という、経理のDXコンサルティングとBPOを合わせたサービスを提供しています。背景として、今は人材採用が厳しいだけでなく、インボイス制度や電子帳簿保存法など新しい法令ができ、経理業務の負担が増しています。会社によっては一人経理の状況も多い中で、経理部門を安定的に運営するハードルが上がっている。そんな問題を解決するために生まれたサービスです。

また、2025年1月以降は経理BPOと共にCFO代行とIPO支援の新サービスを新たに稼働させていく準備をしております。これらの3本柱を軸に総合的なカルチャー支援のサービスを展開していく予定です。

―― 「THNK経理代行」にはどういった特徴があるのでしょうか。

大きな特徴は、お客様との対話・ヒアリングを通じて現状をまずは診断することです。今あるものをそのまま引き受けるのではなく、企業担当者が属人的にやっていた作業を精査したり、クラウドツールの活用状況も伺ったりしています。課題診断レポートを作成したうえでアフタープランのご提案を行い、最適な経理業務フローを策定したり、ツールの選定を行ったりしています。

自社では営業やマーケティングなどを含むフロント業務に注力し、経理は私たちのサービスを使っていただく形や、上場など会社の事業フェーズが移るタイミングで、アウトソーシングしていた経理の内製化支援も行います。経理の内製化以降は、先ほどお話したIPO支援のサービスにも接続させることで上場まで一気通貫でサポートしていく形を目指しています。各フェーズの事業者のニーズに叶うサービスを順次組み合わせることで、今の時代にマッチし、CCTメンバーのニーズにも応えていきたいと思っています。

私たちは、10年以上エンタメ・カルチャー領域で事業展開する企業のサポートを行っているので、業界の商習慣も理解しています。著作権が絡むようなロイヤリティ管理で税務の知見が求められるケースなども含めて、安心して依頼いただけると思います。

―― 2011年から業界に特化した事務所だからこそ、できる強みですね。

会計管理がしっかりとできれば、事業成長につながります。経理のBPOはその土台となる計測システムを仕組み化できるものです。私たちはクラウド会計などの計測システムの導入支援も豊富に実績があります。会計事務所として通常サービスに加えて、BPOによるお金の計測・管理が日常的に負担なくできる仕組みを作り上げることで、経営管理が機能し、予算作成に役立ち、進行中のプロジェクトのお金の管理もタイムリーに把握できるようになります。バックオフィスを整えて事業が上手く進むように支援することが、私たちが提供できる価値だと思っております。

―― CCTの通常メンバーにとって有益なサービスになりそうだと感じました。

さらに理想を言えば、コミュニティを通じてメンバーの皆さんと出会って、共同で学びを提供させていただく機会があればなお良いと思います。経営課題が分かれば、必要な支援の選択肢を啓蒙できて、その場で相談してみようという広がりにもなるでしょう。コミュニティの中で連携できる共同体が生まれれば、大きな広がりになるかもしれません。期待しています。

会計事務所を通じてやっていく価値の最大化へ

―― 今後の事業展開と、CCTとの関わり方をお聞かせいただけますか。

我々はカルチャー・テック領域を得意としてきた会計事務所です。代表の私自身も上場会社の社外取締役などを勤めている経験から、成長ステージにおけるガバナンス体制を含めて企業の成長を支えられるような支援体制を整えていくことが目標の1つです。

今文化にかかわる市場領域はどんどん広がっています。国内だけでなく、国際的な展開もあるでしょうし、地方の文化にも注目しています。個人的には東京と新潟の二拠点生活をしているため、東京と地方でできることをクロスしながら、相乗効果を出していけないだろうかと考えて動いています。例えば新潟では経理DXのアドバイザー企業やサポーター企業の立ち位置で、ものづくり企業など地場の産業への支援も開始しています。

地方ではイノベーションセンターのようなコミュニティで協働できる人たちと出会って、文化振興の切り口を創っていきやすいと感じますが、東京の場合は同じようにいかないと感じています。千代田区という場所についてはとりわけ、大企業から中小企業、フリーランスの方まで様々な方がいますが、どうしても大企業に注目が集まりがちな傾向だと思います。

そのような状況なので、中小企業の居場所というか、千代田区ローカルのコミュニティがあると、地方コミュニティの良さに近いものが生まれる可能性はあると思っています。文化発信の文化を育てていけるような地域文化の振興に取り組んでいるのは、そういう可能性に期待しているからです。

また、地域と世界をつなぐところも目標にしているので、私としては東京以外の地域にも地盤を持ちながら、そこで得た経験や知識を他の地域にも生かせるように活動しています。そういう考え方でやっていく先に、本当の意味での文化支援と、会計事務所を通じてやっていくことの価値が大きくなると信じています。

―― 自分の強みと、もともと自分が好きな分野をクロスできる働き方は、すごく素敵ですよね。

専門性は使いどころだと思っています。ニッチな立場ですが、世の中に対してインパクトを出せるよう、周りの方のお力も借りて頑張っていきたいですね。

―― 最後に、起業を目指す読者へメッセージをお願いいたします。

どの産業も古くからのビジネス慣習などが強くあればあるほど、変革の余地やビジネスチャンスもあると思います。私たちが主に対面している産業で言えば、アートだったり、漫画・アニメ・ゲームなどIP(知的財産)と言われる領域も日本の成長が期待される分野で、世界的な市場の伸びも予想されます。

千代田区にはそういった領域のスタートアップの方々がたくさんいらっしゃいますし、これからも生まれてくると思います。文化を外向きの視点でサービスや、プロダクトに落とし込み発信していくことでチャンスが生まれる時代だと思うので、チャレンジする方がたくさん出てくると、嬉しいなと思っています。頑張ってください!

お話を伺った企業

公認会計士山内真理事務所/株式会社THNKアドバイザリー
公認会計士山内真理事務所は、2011年にアートやカルチャーを専門領域とする会計事務所として設立。会計・税務・財務等の専門性を生かした経営支援を得意とする。2019年には株式会社THNKアドバイザリーを設立し、2024年より「THNK経理代行」サービス提供を開始。2025年にはCFO代行・IPO支援のサービスを本格稼働させ、総合的なカルチャー支援をグループ全体として展開していく予定。