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法政大学の産学官連携…企画担当者が語る魅力的な取り組みの舞台裏
企業・教育機関・行政が手を取り合って新しい価値を生み出す産学官連携は近年、全国各地で行われています。千代田区内にある法政大学も力を入れており、独自に企業・団体とつながりの場を設けたり、近隣の大学や地域とタッグを組んだりして、様々な取り組みに着手しています。今回は、同大学の藤原敏彦氏にその舞台裏を伺いました。

法政大学 総長室付教学企画室 課長 藤原敏彦 氏
中央大学法学部卒業後、金融機関勤務を経て、学校法人法政大学へ入職。研究開発センター、経理部、財務企画部を経たのち、2022年6月より現職。2030年の創立150周年に向けた同大学の長期ビジョン「HOSEI 2030」のもとで様々な教学事項を推進する総長室付教学企画室で、産学官連携に取り組む。
新規事業開発のような教学企画室の役割

―― まず藤原さんのキャリアについて、お伺いできますか?
もともとは金融機関に勤めていたんです。30歳のころに縁があって法政大学に転職したあとも、主に経理・財務の担当だったので、キャリアの大半はお金に関わる仕事をしてきました。総長室付教学企画室に異動して、初めて大学らしい教学部門の業務に携わっております。
―― 教学企画室は法政大学の中で、どのような役割を担っているのでしょうか。
まず本学の授業は、学部それぞれの権限の下で編成されています。そんな中で、我々は全学に関わる教学部門の企画担当として位置づけられています。
具体的には、2030年の創立150周年に向けた長期ビジョン「HOSEI 2030」の下で進めている、SDGsの取り組みやカーボンニュートラルなど、学部横断型による教育プログラムなどを担当しています。法政大学は総合大学ですので各学部の独自性を尊重しつつ、学部をまたいでどの学生でも受けられる新しい領域や共通で学べる内容を企画・プログラム化し、受講できるような仕組みを整えて学内外へ発信をしています。
―― 民間企業で言えば、新規事業のような印象です。広い視野や行動力が求められそうですね。
アンテナを高く張って仕事をすることが求められる部署だと思います。既存の領域だけではなく新たな領域も取り扱うため、学内のリソースだけではカバーできない場合もありますので、外部の補助金や助成金、企業や地域の皆さまのお力をいただきながら、実現を目指していきます。そのため、調整作業も大事な業務になります。
ただ、我々が担当するプログラムは、単位が付与されない“正課外プログラム”と呼ばれるものが主体です。学部の授業のように単位として認められる“正課科目”に比べて柔軟に取り組むことができ、新しいことに取り組みやすい環境ではありますね。
―― 法政大学と言えば、昔から自由を大切にする印象です。大学の校風もプログラム立案の時には大事にされるのでしょうか。
プログラムを検討する時に気をつけていることは、オープンマインドの意識でしょうか。法政大学単体で行うものよりも、他の大学、高校にも開放して一緒にやろうとするものばかりです。多様化の現代社会ですので、学びも多様な出自を持った方と行ったほうが、結果として学生の満足度も学びも深くなると考えております。自由という意味と少し違うかもしれませんが、通じるものがあるのではないでしょうか。
雑談からはじまることも。産学官連携が実現されるまで

―― 産学官連携の取り組みは、どのように始まっていくのでしょうか。
我々は産学官連携を進めるため「法政大学SDGsパートナーズ」というプラットフォームを立ち上げております。大企業から中小企業、学校法人、自治体まで約70の企業・団体に参加いただき、緩やかにつながりながら産学官連携を進めています。
年2回の交流会は企業と学生が対話する機会や、学生が発表する貴重な場になるだけでなく、何かが生まれる場でもあるんですよ。企業から「学生さんを交えてやってみたいことがあるけど、どう思いますか?」と投げかけられることもあります。こちらから提案する場合もありますが、正式な依頼書ではなく、雑談の中から生まれる取り組みが多いですね。
―― 産学官連携と言えば、「千代田区内近接大学の高等教育連携強化コンソーシアム(通称:千代田区キャンパスコンソ)」もその一つだと思います。どんな取り組みをされているのでしょうか。
千代田区キャンパスコンソ(リンクは外部サイト / 以下キャンパスコンソ)は2018年3月に、千代田区内の徒歩圏にある5大学(法政大学、大妻女子大学・大妻女子大学短期大学部、共立女子大学・共立女子短期大学、東京家政学院大学、二松学舎大学)が連携して設立されました。早くから単位互換制度を設け、相互に授業を受けることなどを推奨してきました。
そして2018年9月に、千代田区や千代田区商工業連合会との包括連携協定を結んだのを機に、取り組みの幅が広がっていきました。幹事校を本学が務め、専修大学も2023年11月から仲間入りしております。

―― 最近では、神保町でイベントもされたそうですね。
(2024年)11月9日には千代田区の助成もいただき、共立女子大学の近くでイベントを開催しました。これは、地域に住まわれる方や区外から訪れる方の滞留を目的とした「千代田区プレイスメイキング等実証実験」として行ったイベントで、青空講義や子ども向けのお絵かきスペースなどの設置、本や洋服の交換会などを学生とともに行いました。
キャンパスコンソとして運営委員会を通じて、企画提案から開催調整、当日の運営まで一気通貫で行いました。
また他にも、千代田区商工業連合会と連携した取り組みも行っています。今まさに進行中ですが「千代田さくら祭り2025」の公式ガイドMAPの記事を10人程度の学生で制作したり、2023年は千代田区商店街連合会との連携事業として「千代田区MIYAGEプロジェクト」の一環で、地域のお土産をPRするイベントも運営したりしました。
―― 学生の皆さんにとっても、いろいろと経験できる場になっているのですね。
キャンパスコンソに参加する学生は各大学から集まっていますが、面白いのは活動を通じて地域の新しい一面を発見することなんですよ。例えば、準備のために神保町を歩いてみると「こんなお店があった!」や「こんな歴史があったんだ」と気がつくことが多いと聞きます。千代田区内のキャンパスに通っていても、実は地域のことをよく知らない学生が多いんです。法政大学で市ヶ谷キャンパスに通う学生だと、神保町にはたくさんのお店があって「羨ましい」という声も聞かれました。
また、商店街に行って商品やイベントのアイデアを考えるのが好きな学生も多いですね。自分のやっていることが広い意味でまちづくりにつながったり、パンフレットや冊子という目に見える成果物ができたりすると、やりがいも大きいようです。
それに今の学生は、LINEなどで連絡先を交換しながら上手くチームワークを醸成しています。キャンパスコンソに参加するだけあって、活動を通してチームビルディングやリーダーシップを学びたいという声もあります。しっかりしている学生が多いと感じています。
―― 大学、地域・企業、学生の三方良しの素敵な取り組みですが、ご苦労はあるのでしょうか。
プログラムに携わる学生たちの一体感作りや、プログラムの魅力作りには腐心します。学生生活を送る上でも将来を考える上でも素晴らしい経験ができますので、学生には頑張ってプログラムをやり切ってほしいと思っています。企業や団体も親身になって参加・サポートをいただいております。
ただ、学生たちも授業やアルバイトがあって、いろいろと多忙な年頃ですから、やっぱりモチベーションが変化する時もあります。そんな時には我々から何か困っていることや悩んでいることがないか声を掛けたり、学生の話にしっかりと耳を傾けたり、メンターの立ち回りをしています。正課外の活動ですから、学生たちから興味を持ってもらえる企画を立てたり、プログラムを運営したりするは我々の腕の見せ所です。
学生の自主性を大事にしつつ、しっかりと考えて臨んでもらい、達成感を味わってもらえるように日々努めております。
―― プログラムをともにする企業・団体は連携先というより、パートナーですね。
まさにそうだと思います。企業・団体も学生とプログラムを一緒にやりたいと仰っていただいております。前向きな担当者の方々が多くて学生の成長も楽しみにされていますので、会話を重ねて調整もしていただきながら、産学官の取り組みは成り立っていると思います。
地域で「大学の存在意義を果たす」…千代田CULTURE x TECHへ参画

―― 2024年の夏、千代田CULTURE x TECH(千代田カルチャーxテック/以下CCT)では『「すき」「もやもや」「ひらめき」を形にする5日間~ミライをつくるプログラム~』という学生アイデアソンを開催した際に、法政大学市ヶ谷キャンパスを開催場所としてご提供いただきました。CCTのこのような取り組みは、どのように感じていますか。
有効な取り組みだと感じています。キャンパスコンソでも地域の教育活動支援を目標の一つとして掲げています。これは単に将来的な入学を期待するものではなく、地域における大学の存在意義を果たし、持続可能な大学運営のために大切だと考えています。
学生アイデアソンは我々の目標に合致する取り組みでしたので、迷うことなく参加いたしました。最終の報告会も見学しまして、中高生が企業関係者や親御さんの前でピッチをするのは緊張もあったと思いますが、とても良い経験をされているなと感じました。
―― CCTでは起業したい方、起業したばかりの方、応援したい方など様々なメンバーがいらっしゃいます。教学企画室として、そういったメンバーの皆さまと一緒に実現したら良いなと思うことはありますでしょうか。
我々は学生とともに動きますので、企業とWIN-WINな関係のパートナーになれると思っています。学生は企業の取り組みを間近に見られる機会になりますし、何かのプロジェクトに参加させていただければお役に立てると思います。ある企業では、社員研修と連携して若手社員と学生たちが一緒にワークショップを実施しました。
―― 最近の傾向として、学生の皆さんの起業に対する興味・関心はどのような状況なのでしょうか。
やはり各所に起業したいと思っている学生はおりますので、必要に応じて各分野に携わる先生方がアドバイスや支援をされていると聞いております。そのため教学企画室としては大学生より手前の高校生に対して、アントレプレナーシップの場を設けています。2023年より外部の高校生対象のビジネスプラングランプリ応募を前提としたコンテストを開催しました。
我々の付属高校や協定を結んでいる学校の生徒さんをお呼びして、講師となる先生を招いて座学をやったり、メンター役の大学生や大学院生と壁打ちや議論をしたり。そうすることで高校生は大人たちとコミュニケーションする中で、学びを得ていくわけです。
この取り組みを通じて、ゼロからイチを生み出す思考やアイデアを形にする考え方を高校生に経験してほしいと思っています。単純に将来的な起業を目的としたものではなく、いずれ就職をすれば必ず使うスキルやマインドですので、役に立つものだと考えています。
「現場を見て、自ら考え、実践できる」人材育成へ

―― 法政大学は2030年に創立150周年を迎えますが、教学企画室として今後の展望をお聞かせいただけますか。
大学として長期ビジョンに掲げている持続可能な社会の実現に向けて、SDGsやカーボンニュートラルの達成に貢献するとともに、本質的には社会に出てしっかりとしたキャリアを描ける学生を育成していきたいと考えています。地域連携も同じ考えで、地方創生や地域活性化と言われている中で、現場を見て、自ら考え、実践できる人材に育ってほしいと思います。
―― ありがとうございます。では最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いいたします。
法政大学では「実践知」を大学憲章で掲げています。現場で学び、実践するという知を重視しており、そういった意味で企業・団体との連携は必要不可欠です。学生にとっても、実際の現場で学べる機会は大変貴重です。これからもパートナーとして、一緒に取り組みができれば嬉しく思います。
お話を伺った大学

法政大学
1880年にフランス法系の近代的な法治と権利義務を教育する私立法学校(東京法学社)として設立。15学部2万8000人の学生が学ぶ総合大学として、2016年に制定した法政大学憲章「自由を生き抜く実践知」に基づいた「実践知教育」を展開し、「世界のどこでも生き抜く力」を有する人材の育成に取り組む。法政大学SDGsパートナーズ(リンクは外部)で産学官連携を促進中。