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600以上の店舗網を持つ小売企業のオープンイノベーションとは?…ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスが取り組む新規事業創出

千代田区(秋葉原)を拠点に活動するユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)。同社は首都圏に店舗展開する、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東、いなげやの4社のスーパーマーケットの共同持ち株会社です。オープンイノベーションにも積極的で、店頭を「顧客接点の場」として位置づけて、パートナー企業とともに新規事業創出に取り組んでいます。同社のマーケティング ビジネスユニット 新規事業開発部の福田順一さん、 庄司英功さんにお話を伺いました。

ユナイテッド·スーパーマーケット·ホールディングス株式会社

マーケティング ビジネスユニット 新規事業開発部 マネージャー 福田 順一 氏(写真:右)

 株式会社カスミに入社。店舗の青果部門責任者、店舗責任者を務めたのち、本部勤務で移動スーパーやネットスーパーなど数々の新規事業に取り組む。2022年よりU.S.M.Hへ出向し、2025年より現職。同社の新規事業全体を推進している。

マーケティング ビジネスユニット 新規事業開発部 担当 庄司 英功 氏(写真:左)

 株式会社カスミに入社。店舗の青果部門責任者を務めたのち、人事採用を経験。2024年よりU.S.M.Hに出向し新規事業全体を推進。市場調査からビジネスモデル策定、事業立上げを担当している。

アイデア創出と事業化は別ものという課題から

―― 御社はオープンイノベーションへ積極的に取り組まれていらっしゃいます。どんな背景があったのか。また、どんな方針をお持ちでしょうか。

福田さん)昨年、弊社はいなげやが仲間入りして統合後の売上高は9000億円強とスーパーマーケット国内最大手となり、統合を契機に1兆円の大台をうかがっています。いま社として組織変革を進めている中で、当部では事業をゼロから創る「0→1」のソーシング領域 を担当しています。

新規事業創出の取り組みについては、2019年に社内で研究会を立ち上げたことに遡ります。「こんな事業が良いよね」というアイデアは出るのですが、それを事業化する動きまではできなかったんです。アイデア創出と事業化は別もので、このまま続けていく難しさを感じていました。

そこで、創出されたアイデアと、社内外の独自技術やサービスをマッチングする機能が社内に必要ではないかという結論に至り、我々のチームが組成しました。組織に明確な課題があれば、既存の事業部でも解決可能ですが、複数の事業部にまたがる課題だと、新しい解決方法を探索する窓口が無かったんです。どっちがやるの?という話になるじゃないですか。そうしたものを、我々が窓口となって課題と照らし合わせて検討し、経営陣に上程する役目を持っています。今年3月にチームから部へ昇格して、私をはじめ5名が所属しております。

―― 御社の中期経営計画書では、3つの成長エンジンのひとつの中に、ビジネス領域の拡大として新規事業への取り組みを重要項目に挙げています。そんな中で、立ち上げたオープンイノベーションプラットフォーム「AKIBA Runway」が果たすミッションをお聞かせいただけますでしょうか。

福田さん)AKIBA Runwayは2022年に、社内外の独自技術と我々のアセットを組み合わせて、新しい提供価値の創造をミッションに立ち上がりました。

具体的に言うと、我々のアセットは合計で660の店舗です(2025年1月31日時点)。これは「顧客接点の場」として考えると大きな経営資源であり、買い物の場だけではなく、新たな提供価値があればお客様の来店動機が増えると考えているんです。そのため、ビジネスの対象領域を狭めず、新規事業に取り組む企業とスピード感を持って連携・共創をしています。

スタートアップとの共創で大事にしていること

資料提供:U.S.M.H

―― AKIBA Runwayでは、具体的にどんな新規事業が生まれたのでしょうか。

福田さん) 代表的な事例が2つあります。ひとつは庄司が携わるプランテックス社との取り組みです。プランテックス社と協業して、茨城県土浦市に自社運営の植物工場を立ち上げ、PB商品「Green Growers(グリーングロワーズ)」の第一号としてレタスの栽培から販売までを一気通貫でおこなっています。

2023年6月からは都市環境型農業野菜の普及を見据えた「持続的な都市環境野菜サプライチェーン構築(Sustainable urban Environment vegetable supply chain Development: SEED)コンソーシアム」を設立しました。

もう一つは、植物由来の代替肉「BEYOND MEAT®(ビヨンド・ミート)」事業です。アメリカのビヨンド・ミート社と独占販売契約を結び、店頭での販売のみならず、メニューの提案も行っております。健康的に優しく、環境負荷の低減にも資する新ジャンルとして魅力を発信しております。

この他にも現在、150社以上の企業と具体的な取り組みの検討をしており、40以上のPoCや連携を実施してきました。

※ Proof of Conceptの略。新しいアイデアが実現できるかどうかを確認するため、小規模な検証をすること

―― やはり40の事業に絞り込む前に大きなシーズの山があるんでしょうか。

福田さん)そうですね。隔週で打ち合わせを実施し、各メンバーが案件を出して、チームで評価をします、その場で更に探索を進めるかどうか判断をしています。各案件は持ってきたメンバーがリーダーとなって進めております。

スタートアップ企業の皆さまとお話をする機会が多いので意思決定でお待たせすることが無いように、スピード感を大切にしています。相手先の企業が行う意思決定のスピードに合わせるような形で、1案件を3ヶ月から6ヶ月の期間で事業展開までつなげられるよう動いております。

資料提供:U.S.M.H

―― 意思決定のスピードの速さは、もともと社内にあったのでしょうか。

福田さん) 2019年に立ち上げた研究会のボードメンバーには、経営陣も入っておりました。当時から、新しい技術やサービスを内部だけでやることの限界を感じている認識があったんですよね。

我々のチームは経営陣に上程する機能を持っていますので、事業化に向けて動く場合は、どのように開発の伴走をしていくかまで詰めていきます。新しい取り組みに対してのチャレンジを、経営陣から理解いただいているのは心強いですね。

―― 庄司さんは、リーダーとしてプロジェクトをリードされておりますが、いかがでしょうか。

庄司さん)なかなか大企業では、領域を定めずに取り組める仕事は無いと思っています。やりがいを持って楽しく仕事ができている反面、事業を前進させていく大変さもあります。新規事業ですので社内で様々な調整が必要です。経営陣に対して共創先の魅力や熱意を伝えるとともに、会社への事業貢献をどう示すか、日々考えながら取り組んでおります。

―― 新規事業への取り組みを通じて、チャレンジする社風が育まれている印象がうかがえます。

福田さん)イノベーティブな人材育成も、我々のミッションのひとつです。案件への取り組み、社外とのネットワーク構築を通じて、社員一人ひとりのキャパシティを広げられているのも、成果の一つだと考えています。

CCTメンバーとともに…「新しい取り組みをご一緒できることに期待」

―― 千代田CULTURE x TECH(千代田カルチャーxテック/以下CCT)にご参加いただいておりますが、参加を決めたきっかけを教えていただけますか。

庄司さん) これは、わたしですね。カスミからU.S.M.Hに出向してソーシング活動をしていく中で、企業や施設などを調べているときにCCTを知りました。運営事務局へホームページを通じて問い合わせをしたことが参加のきっかけです。

―― いろいろとアクションを起こしている中で偶然の出会いだったんですね。

庄司さん)まさに、そのとおりですね。

福田さん) メンバーは来た相談を受けるというより、外へ探索に行くというマインドを持っています。

―― CCTではスタートアップから大企業まで様々な方が参加されているコミュニティです。ここで、ゆくゆく実現できたら良いなと思っていることはありますか。

福田さん)やはり我々は、顧客接点の場をたくさん持っております。常々、お客様が来店したくなる店舗づくりを目指している中で、その場に価値を感じてくださるスタートアップの皆さまと、来店動機が増える新しい取り組みをご一緒できることに期待しています。

―― 千代田区(秋葉原)を拠点に活動される企業として、創業や共創を支援する行政の取り組みをどう感じていますか。

福田さん)行政の皆さんがスタートアップ支援や共創支援に関心をお持ちであることが、ありがたいです。自分たちが外に向かって活動していける場はなかなか多くありませんので、ミートアップなど区内にいる方と巡り合える機会が増えると、嬉しいですね。

あと、千代田区の特性としてビジネスだけではなくカルチャーの発信地という側面もあると思います。我々の店舗を生活者が交わる場として捉えれば、新しい店舗づくりにつながる取り組みもできるのではないかと思います。

―― 新規事業創出ですが、商品開発に限らないということですね。

福田さん) そうなんですよ!こんなサービスがある、こんな催し物がある、こんなイベントをやっている、もっと言えば、この人に会えるという体験も来店動機になり得ると思っています。

事業会社のカスミの新業態BLANDE(ブランデ)では、店舗にキッチンスペースを併設して地域の料理研究家やシェフを招いた料理教室も開催しています。食材を買った先にある体験や交流が生まれるスペースも増やしているんですよ。

新規事業と向き合った先に「新しい景色が見える」

―― スーパーの役割を、時代とともに拡張していく取り組みが素敵だと思います。今後の新規事業創出に関する展望はどのようにお考えでしょうか。

福田さん) 4つの事業会社をアセットとして考えたとき、その活用方法は多岐にわたると思っています。シーズの探索活動を継続していく中で、活用のヒントをスタートアップの皆さまとディスカッションして事業開発につなげ、お客様に新たな提供価値を創造していく。そんな活動を通して、新規事業を中期経営計画で掲げている「第3エンジン」に成長させていきたいと思います。

―― 最後に、読者へメッセージをいただけますか。まず、将来的な共創パートナーになるかもしれないスタートアップの皆さんへ。

福田さん) やはり、スタートアップの方は事業に熱い思いを込めていらっしゃいます。我々流通の役目は、生産者と生活者のつなぎ手になることで、生産者の思いが強いほど、生活者にも伝わるものが大きくなると思います。一緒に、新たな提供価値を考えていきたいです。

あと、我々も熱い思いに対して共感があって、誰かに伝えたいと思ったときに、店舗のお客様が喜んでいる様子を想像できるのも、パートナー企業と共創する上では大事なんですね。

―― ありがとうございます。新規事業の立ち上げに悩んでいる方へも、メッセージをお願いします。

福田さん)レールが無いところを進むのは、やっぱり大変ですよね……。

それでも新規事業の立ち上げに正解はありません。まずは行動あるのみです。一生懸命向き合って、考えて、レールが敷けて前進したときに、きっとまた新しい景色が見えるはずです。頑張ってください。

お話を伺った企業

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社
2015年に設立された、首都圏に展開するマルエツ、カスミ、マックスバリュ関東、いなげやによるスーパーマーケットの共同持ち株会社。事業会社4社が持つ店舗数は、合計で660店舗を数える。新規事業創出にも取り組み、2022年にオープンイノベーションプラットフォーム「AKIBA Runway」を立ち上げて、パートナー企業とともに「新たな提供価値の創造」に動き出している。