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ビジネスコンテスト2025受賞者インタビュー|フィールドクロス株式会社

今年2月に開催された「千代田CULTURE×TECH ビジネスコンテスト 2025」で、「千代田CULTURE×TECH AWARD」に選ばれた受賞者へインタビューを行いました。

今回は、フィールドクロス株式会社の代表取締役社長である鬼頭和秀さんです。コンテストの感想のほか、開発した日本製の産業⽤スマートグラス「InfoLinker3」などのお話や、コンテストの副賞(※)によって参加する「SusHi Tech Tokyo 2025」(5月8日~10日)も含めた今後の展望を伺います。エンジニア時代にひょんなことから現職に至った出来事や、ものづくりに対する熱い思いなど、ぜひご覧ください。

※. 「SusHi Tech Tokyo 2025」に出展する千代田区ブース内に、受賞企業の事業紹介スペースが準備される

フィールドクロス株式会社 代表取締役社長 鬼頭和秀 氏

エンジニアとしてキャリアをスタートし、ハードウェアやソフトウェアの開発に従事。テレビや医療機器、VR機器の会社勤務を経て、ウェアラブルデバイスのメーカーに入社後、ソフトウェア開発部門の責任者を務めたのを機に社長へ就任。その後、2024年に設立されたフィールドクロス株式会社で前会社からスマートグラス事業を譲り受けて、現職に至る。

突然の社長就任も、エンジニア経験が後押し

―― これまでどんなキャリアを歩まれてきたのか、お伺いできますか。

もともと私はエンジニアをやっておりまして、4回の転職をしました。フィールドクロスで代表を務めておりますが、私が起業したわけではないんですよ。

フィールドクロスは、ウェアラブルデバイスを手掛ける前身の会社からスマートグラス事業を譲り受けた会社です。私はその前身の会社へソフトウェアの開発リーダーとして入社して取締役になるのですが、その後、当時その会社のファンドから「プロダクトを一番分かっている者が社長になるべきだよ」という話が現場に下りてきまして……。私が社長をやることになりました(笑)。

―― そんな話が本当にあるのですね。驚きませんでしたか?

そりゃ、その話はちょっと違うんじゃないかと思いましたよ(笑)。だって、私はエンジニアですからね。

ただ、これまでエンジニアの仕事で携わったプロダクトは、業界初や世界初になるものばかりだったんです。 だから、技術的にやっていないことに取り組む機会が多々あったので、今回は経営的に初めてのことをやるものだと思いました。新しいことをすれば課題も出ますが、何だかんだ上手くできたので、今回もできるかなと思って社長職を引き受けました。

―― 御社では、中小企業の人手不足から生じる⼈材育成や技能伝承の課題に着目して、⽇本製の産業⽤スマートグラス「InfoLinker3」と、現場⽀援のクラウドサービス「LinkerWorks」を開発されました。どのようにして、開発に取り組んだのでしょうか。

開発当初20社ぐらい、プロダクトに興味を持っていただける企業がありましたので、PoC※によって頂いたフィードバックを改善していくサイクルで作り込んでいきました。

※ Proof of Conceptの略。新しいアイデアが実現できるかどうかを確認するため、小規模な検証をすること

今もソフトウェアは、現場ファーストを意識して「こんな機能があったら、もっと便利なのに」というリクエストを可能な限り取り入れて更新しています。海外製だと柔軟な対応が難しい場合もありますが、そこは我々の強みになるのではないでしょうか。

―― 現場に足を運ぶことで課題が見えてくるんですね。

というより、現場の課題は進化するものだと思います。使っていただく中で、あるいは新しいお客さんとの会話の中で、課題に気づくことが多いですね。InfoLinker3も製造業での使用を想定していたのですが、農業や畜産でも使われるようになりました。使用シーンが違うと効果も変わってくるので、発見が多いです。

スマートグラスをつけてピッチに登壇した理由

―― そんなプロダクトについて、ビジネスコンテストでピッチをしていただきました。コンテストの募集は、どんなきっかけで知りましたか。

申し込み終了の3日前ぐらいに知ったんです。私が利用している創業支援施設のスタッフさんから「鬼頭さん!これ(=ビジネスコンテスト)ありますが、いけるんじゃないですか?」と声を掛けられて。急いでエントリーシートを書いて応募しました。

―― 書類審査を通ってから、ピッチ当日まではどんな準備をされましたか。

あんまりね、私はビジネスコンテストでピッチをしたことがなくて。事前にどんな進め方でピッチをすればいいのか調べて、構成を練りました。細かいことを言えば、営業資料だと印刷のしやすさを考えて背景は白にしますが、今回はスクリーンに投影されるので見やすさを考慮して、資料の背景に少し色をつけています。20枚ぐらいの資料ができて、そこから5分の持ち時間に収まるよう削って、仕上げていきました。

―― 当日は登壇されて、スマートグラスをつけてからピッチを始めました。あのアクションでどんなプロダクトか示せるのでピッチのつかみとして良いなと感じましたが、準備されたのですか。

ピッチの1週間前に創業支援施設での面談で、コンシェルジェからアドバイスをいただいたんです。他の登壇者とピッチ内容以外で「インパクトがあったほうが良いかもしれない」と。そこで、私たちはものづくりのスタートアップなので、プロダクトをつけて登壇することを決めました。

―― そうでしたか。会場の雰囲気、ご自分のピッチの出来栄えはどう振り返っていますか。

見てくださる方がいっぱい来て、こんなにも興味を持ってくださる方がいるのかと思いました。

ピッチの評価を自己採点すると、8割ぐらいの出来栄えです。プロダクトの性質上、多くの説明が必要なのですが、もう少しゆっくり喋りたかったと思います。

―― 審査の結果、見事にAWARD受賞をされました。名前が呼ばれたとき、どう感じましたか。

びっくりしましたよ。自分以外のピッチも素晴らしかったので。休憩時間にも、一緒にAWARD受賞をされたCoNCaの伊藤さんらと「誰がとるんやろな(笑)」と喋っていたぐらいですから、お互いに自分たちが選ばれると思いませんでした。

交流会の名刺交換で自分に行列ができたのも初めてでしたし、ピッチを褒めていただいて嬉しかったです。今まで自分が並ぶほうでしたからね。

「ものづくりをしているスタートアップを応援したい」

資料提供:フィールドクロス株式会社

―― 千代田CULTURE×TECHのコミュニティには、スタートアップ企業やその支援企業、大企業まで様々な方が参加されています。ゆくゆくコミュニティでできたら良いなと思うことはありますか。

ハードウェアのプロダクトを扱っている方たちと、雑談や相談ができると良いなと思っています。今世の中の流れとしてSaaSのサービスが多いだけに、ハードウェアをやっている方が、こうだ、ああだと、ものづくりの経験を話せる場が少ないと感じているんですよ。

ハードウェアあるあるで、いろいろな課題が開発中には山積するので、「あの時どうやったの?」と気軽に話せる場があると開発のヒントを得られると思います。開発者同士がお喋りできる場を作りたいですね。

―― 鬼頭さんも、開発で壁にぶつかったときは周りの方々に聞いたのでしょうか。

一緒に開発をしているエンジニアと話し合って解決していました。お金を出せば外部で知見を持っている方に聞けるでしょうが、スタートアップだとそんなお金を出す余裕も無いじゃないですか。若い方が多いスタートアップだと、開発の経験値が必ずしも豊富であるとは限らないと思います。そういう意味でも、ハードウェアのスタートアップが集まるコミュニティは必要だと思います。

僕はスタートアップの立場ですけど、これまでの経験を生かしてものづくりをしているスタートアップを応援したいという気持ちもあります。もちろん、ものづくりは初期投資もかかって大変な過程もあるのですが、完成したときの達成感や誰かの役に立つ喜びも大きいので、その楽しさを伝えたいんですよね。

ものづくり起業を目指す方へ…「諦めなければ完成する」

―― 今後の事業展開はどのように考えていらっしゃいますか。

今は、スマートグラス本体に入っているソフトウェアを改良して、現場の方たちの仕事をさらに効率化できないかと考えています。AIエージェントを搭載して、現場で作業方法を聞けるようにしたいと思っているんですよ。

取り組みの意義としては、外国籍労働者への対応です。今、東南アジアなど母国語が英語ではない国から現場へやってくる方が増えています。意思疎通で苦労すると指示をする日本人にも負担がかかりますし、通訳を置く必要が出てくるともっと大変になります。現場の安全対策の観点からも、双方にとってコミュニケーションは円滑にできるほうがいいでしょう。

そんな課題を、スマートグラスを活用した遠隔OJTで解決できればと考えています。AIエージェントを通して自動翻訳・ 同時通訳できれば、教える人がすごく楽になるじゃないですか。日本語で喋ればいいだけなので。外国籍の方も母国語で聞けるとコミュニケーションロスが減るので、負荷が大きく減るんじゃないかと思います。

―― 言語の壁が取り払われると、海外販売の可能性も広がりそうです。「千代田CULTURE×TECH AWARD」の副賞として「SusHi Tech Tokyo 2025」(5月8日~10日)でPRできる場が持てますが、展示会への期待感はいかがでしょうか。

メディアをはじめ、いろいろな方が来ると思うので発信の場になると思っています。スマートグラスを知らない人が多いので、 実際につけてみて“こんなことできるんですよ”と体験してもらって認知を広げて、営業につなげていきたいと思っています。ものづくりやBtoB系のYouTuberさんがプロダクトを面白がってくれたら良いんですけどね。

―― 最後にものづくりで起業を目指す方へ、エールをいただけますか。

そうですね……。諦めなければ完成します!

―― まさに、本質でしょうか。

ものづくりで開発がすんなり行くことは、もう100パーセント無いんですよ。だからね、完成まで何回もトライ&エラーを繰り返すので、途中で心が折れそうになるときがあるんです。

でも、それを乗り越えたら完成します。そんな苦しいときに、聞ける場、聞ける人が近くにいるとものすごく助けになるんですよね。インターネットで調べても出てくる情報は限られますから。CCTでハードウェア開発をやっている方、やろうとしている人たちに、チャレンジを続けてほしいというのが伝えたいメッセージです。

何か協力できることがあれば、私も皆さんの力になりたいと思います。

【イベント情報】SusHi Tech Tokyo2025

・日時|ビジネスデイ <要 チケット購入>
    5月8日(木)、9日(金)9:30~18:30

    パブリックデイ<無料解放 / 要 事前登録>
    5月10日(土)10:00~18:00(9:30受付開始)

・場所|東京ビッグサイト(〒135-0063 東京都江東区有明3丁目11-1)
    >>受賞企業は、千代田区ブース内で事業紹介をしております

イベントの最新情報は、公式ホームページをご覧ください(リンクは外部サイト)

お話を伺った企業

フィールドクロス株式会社
2024年6月設立。中小企業の人手不足に端を発した⼈材育成および技能伝承の課題に着目して、⽇本製の産業⽤スマートグラス「InfoLinker3」(インフォリンカースリー)と現場⽀援クラウドサービス「LinkerWorks」(リンカーワークス)を開発。製造業や建設業、一次産業など幅広い業種で遠隔OJTや遠隔確認等をするツールとして導入されている。事業へ取り組む信条に「現場ファースト」を掲げる。