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大谷直之氏の魅力に迫る―千代田CULTURE×TECH アンバサダーインタビュー
千代田CULTURE x TECHアンバサダーにこの春より就任した大谷直之氏(Gazelle Capital株式会社 シニアキャピタリスト)は、兵庫県の生まれ。大学在学中にApple Japanで働き始め、その傍らで友人たちと起業を経験。2023年にGazelle Capital(ガゼルキャピタル)入社を機に、ベンチャーキャピタリストとしての新たなキャリアを歩んでいます。様々な仕事を経験してきた裏には、大谷さんのある思いが込められていました。

大谷 直之 氏(Gazelle Capitalシニアキャピタリスト)
大学在学中にApple Japanへ入社して6年半勤務。その傍ら、淡路島で合同会社を設立して飲食業や畜産業も行う。外資系コーヒーショップやSaaS企業を経て、Gazelle Capitalへ入社。今はVR領域に関心が強い。趣味はキックボクシングや漫画、ゲーム。去年犬を家族に迎え、かわいくて仕方がない。起業家らと区内でバスケをするのが密かな目標。
大学3年で中退→他大へ編入したワケ

―― まず、大谷さんのご出身、またどんな学生生活を過ごされていたかお伺いできますか?
出身は、兵庫県の神戸市です。垂水という明石海峡大橋が近くにあるまちで生まれました。中学校から高校までバスケットボールをやっていて、大学進学を機に大阪で暮らし始めました。関西外国語大学に入学して留学も経験した後、帰国後に中退して、オンラインで大学卒業資格が取得できるビジネス・ブレークスルー大学へ編入しました。
―― 外国語大学に進学ということは、海外志向だったのでしょうか。
中学3年生頃から、発展途上国支援をしたいという気持ちが強くなって、国連に行けばそれができるかもしれないと思うようになりました。でも、勉強は大嫌いで……(笑)。ただ国連に行くために英語とフランス語が必要でしたので、精一杯勉強をして関西外国語大学に合格できました。
―― それでも大学を中退されたのは、何か理由があったのでしょうか。
私は小学1年生から母子家庭で育ち、関西外国語大学時代は一人暮らしをしながら、授業料は基本的に奨学金とアルバイト代で払っていたんですよ。3年生を終えた時に、目標だった留学を達成して英語もまあまあ喋れるようになって、卒業単位もクリアしていたので、後はだらだら過ごせるなという状態でした(笑)。
でも、卒業までに学費を払いながら、だらけるのはもったいないと思ったんです。だったらそのお金を原資にして、違う大学へ編入して別の学びを得たいと考え、中退を選びました。
―― そうなんですね。ご経歴を拝見すると、在学中にApple Japanに入社したとありますが、これはいつ頃のことでしょうか。
関西外国語大学3年生の時ですね。Apple製品が好きだったのでアルバイトをしたかったのですが、当時はその働き方が無かったんです。そんな時、契約社員の制度を紹介されたので、迷うことなく入社を決めました。
―― どんな仕事をされていたのですか。
まず、Apple Storeの直営店で修理と販売を1年ずつ担当しました。その実績がある程度良かったため、3年目には国内の販売員に接客方法などをトレーニングするチームのメンバーに選ばれて、トレーナーとして新店舗の立ち上げなどに携わっていました。
また、一対複数のトレーニングだけでなく、一対一のコーチングも担当しました。当時、新たに生まれたポジションで、日本のスタッフとして初めて選んでいただき、延べ6年半ほど勤務していましたね。
―― Apple Japanで働きながら、兵庫県淡路島で会社を設立されたそうですが、これはどんなきっかけで、またどのような事業をされていたのでしょうか。
私の友人が個人事業主として、淡路島で鉄板料理屋をやっていたのですが、経営で苦労していた時に声を掛けていただき、別の友人と共に3人で会社を立ち上げました。私はキャッシュポイントを作る役割を担い、一例として牛の畜産に注目して事業を広げました。神戸牛で有名な土地柄ですから、畜産農家に対する充実した支援制度に着目して牛を育て、自分たちの飲食店でハンバーガーとして提供するサイクルを作ることができましたね。
VCへ転身…やりたいことと完全に一致して

―― そんな経験の後、BLUE BOTTLE COFFEEやSaaSベンチャーの勤務を経て、Gazelle Capitalに入社されました。どんなきっかけがあったのでしょうか。
Gazelle Capitalとの出会いは、代表の石橋が私を誘ってくれたことがきっかけになります。学生時代に彼が立ち上げた発展途上国支援の団体へ、私も一緒に入って活動していたんです。もう付き合いが長くなるのですが、彼がGazelle Capitalを立ち上げて「直之はVCに向いていると思うから、やらないか?」と声を掛けてくれたんです。
私の経歴は一見すると点でバラバラですが、私の中では1本の線につながるようにキャリアを踏んでいます。
その一番の理由が、私が提供できる価値を社会的なことに最大限発揮していきたいと思っていたからです。発展途上国支援もそうでしたが、私の手の平を大きくして、すくえるものを大きくしていきたいという思いが強くありました。学校の校長先生になりたいと思っていたこともあるぐらいです。
私一人の力が正しく派生すれば、周りにいる人たちに良い影響を与えられて、その人たちが成長したときにさらに、その周りにいる方へ良い影響を与えて、その輪がどんどん広がっていくと思っていました。
そんな思いを実現するために必要なスキルを逆算的に考えて、これまで仕事をやってきました。ですからVCという職業では投資活動を通じて、私の経験から得られたものも起業家たちに提供し、その方々が社会を良い方向へ変えようとして、それがさらに良い方向になればより多くの人に影響を与えられる。私がやりたかったことと完全に一致していると思って、VCの仕事に魅力を感じ、Gazelle Capitalへ入社をしました。

―― そのすくえる手の平を大きくして、社会を良い方向に変えていきたいという気持ちは、何がそうさせたのでしょうか。
一番の根っこは、私が小学生の時に両親が離婚して、貧乏だった経験からだと思います。その時に周りの人たちから「かわいそう」と思われるのが嫌だったんですよ。私は普通にしてるだけなのに、なんで「かわいそう」と思われないといけないんだろうと。私自身もそう思ってしまう瞬間はありました。
そんな経験があるからこそ、発展途上国支援にも取り組んだんです。発展途上国の子どもたちの境遇は確かに大変ですが、周りが勝手に「かわいそう」と思っている、かつての私と同じような見られ方をしていて、自分に何かできないかなと考えていました。
そのような背景から、何か人の可能性を最大化させるところへの価値観が醸成されていきましたね。
―― 現在、Gazelle Capitalのシニアキャピタリストとして、どんな業務をされているのでしょうか。
業務内容はシンプルで、起業家と面談をして投資判断を社内で議論しています。いざ投資実行をさせていただくと決まれば、実行後に定期的に経営状況を確認しつつ、次の資金調達に向けたサポートなどをしています。 また、弊社に資金を預けてくださった出資者とのコミュニケーションもしています。
―― 会社として、また大谷さんとして、どんなポリシーで投資先を選定されるのでしょうか。
Gazelle Capitalとしては創業期のスタートアップを対象として、特に日本の既存産業に対して投資をすることを主軸に置いています。その中で、起業家が誰のどんな課題をどうやって解決しようとしているのか、“ストーリー”を非常に重要視しています。私も面談前に相手先のことを調べますが、 それ以上のものがあって欲しいですよね。
―― 投資後に成長される企業には、どのような特徴がありますか。
仮説検証が具体化できる起業家は、事業を伸ばしていく印象です。投資によって得たお金の使い道は皆さんよく考えられますが、使う理由やその理由に至った経緯、さらには使った後にどんな成果を見込んでいるのか、仮説検証の解像度が高ければ高いほど成長につながります。また、伸びが悪い場合でも原因分析がしやすくなります。
千代田区との縁。気に入っているところは?

―― Gazelle Capitalは千代田区にオフィスを構えていますが、何か理由があったのでしょうか。
Gazelle Capitalが千代田区内神田に来た理由は、このオフィスのオーナーである住友不動産とのご縁からです。住友不動産がスタートアップ向けに提供しているGROWTH神田というインキュベーション施設の運営パートナーにGazelle Capitalがなりまして、こちらに移転してきました。
―― 千代田区で気に入っているところはありますか。
この辺りで言えば、ご飯屋さんがめちゃくちゃ多いところです!鎌倉橋を少し渡った所にあるサンケイビルにキッチンカーが来るのですが、サバ弁当を提供するお店が非常に気に入っていますね。美味しいんです。
また、先日も千代田CULTURE×TECHのイベントに参加しましたが、当初は区内でこんなに集まれる場があるとは思っていなかったです。起業家の方々とお会いできる場があるため、我々も恩恵をいただいています。
―― 今回、アンバサダーに就任いただきましたが、オファーを受けた時にどう思いましたか。また、実際に何を決め手にお引き受けいただいたのでしょうか。
オファーをいただいた時は、嬉しかったです。昨年から一人の参加者としてイベントに参加したり、2月のビジネスコンテストで審査員を務めた経験を通じて、私は多くの起業家と接点を作ることができました。その背景には、より多くの起業家が千代田区にいらっしゃるだろうと想像をしています。
今後も多くの起業家とご一緒できる機会があれば、起業家にとっても、弊社や私にとっても良いのではないかと思って、今回アンバサダーの就任を決めました。
VCや事業企画、営業など持てる経験をコミュニティに提供へ

―― 4月よりオンラインコミュニティ(Slack)で情報発信をしていただいているほか、5月21日にはミートアップの開催を予定しています。大谷さんからコミュニティメンバーへどんなことを提供できそうでしょうか。
プレシードやシード期、登記前の方々とお話をさせていただいている経験から、最初の資金調達における注意点やスケジュールの立て方、調達金額の妥当性など、資金周りの知見を皆さんへ提供できると考えています。また、前職でTo B領域の SaaS企業で事業企画や営業を担当していた経験から、その分野に対するアドバイスもできると思います。
―― 資金調達などの相談をする際に、コミュニティメンバーが事前に準備をしておくポイントはありますか。
長くても10分程度で、ご自身がされたい事業内容を説明できるようにしていただきたいですね。起業家の皆さんはとても時間が足りない中で、私はその時間をいただくので責任を持たないといけないと考えています。いただける30分から45分ぐらいの時間の中で事業説明に20分以上かかってしまうと、私が情報を受け取るだけになってしまいます。具体的なアドバイスの時間が取れなくなると、非常に申し訳ないです。
ピッチ資料は完成していなくても構いません。やりたいことも明確であれば問題ありません。もし明確ではなくても、どのあたりがハッキリしていないのかを事前に整理していただければ、相談がより充実した機会になると思います。
―― 最後にコミュニティメンバーの皆様へ、メッセージをいただけますでしょうか。
千代田区は、日本のスタートアップ市場の中でも特にチャンスが多い場所です。この環境を最大限活用することが、スタートアップの重要な一手になると考えています。私もその一手として、皆さまのお役に立てることがあれば、ぜひご協力させていただきたいと思います。登記前の段階でも構いませんので、お気軽にご連絡ください。
【イベント情報】
千代田CULTURE x TECHアンバサダーの大谷直之氏、児玉佳奈氏のお二人と交流できる「千代田CULTURE×TECHアンバサダーミートアップ」を、5月21日(水) 19:00より、axle御茶ノ水 で開催いたします。ぜひ、この機会にお越しください。
お話を伺った企業

Gazelle Capital株式会社
2019年4月設立。ベンチャーキャピタルとして「デジタル世界に、日本産業を構築する」というビジョンを掲げ、既存産業に対してデジタルの力でイノベーションを起こしていくスタートアップ企業の創業期に特化した投資・支援をする。「スタートアップ投資TV」というYouTubeチャンネルで資金調達や創業時に役立つ情報も配信中。代表者は石橋孝太郎氏。