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トヨタコネクティッドが取り組む新規事業開発…共創につながるコミュニティ作りも推進中
「IT×ものづくりのDNA」でサービス開発をしているトヨタコネクティッド株式会社は、2020年に新規事業を開発する先行企画部を設置。千代田区御茶ノ水に新たな価値創出や、共創による新事業開発などを推進していく拠点・GLIP(Global leadership Innovation Place)を立ち上げて、コミュニティ作りも進めています。ことし創立25周年を迎え、持続的な成長を目指す同社・先行企画部の野本雅史さんへ、その取り組みを伺いました。

トヨタコネクティッド株式会社 先行企画部 ビジネスインキュベーション室 室長 野本雅史氏
大学を卒業後、ソニーへ入社。ハードウェア系のソフトウェアエンジニアとしてモビリティ事業など多数のプロジェクトに携わり、2020年よりトヨタコネクティッドへ転職。同社・先行企画部の第1号社員として新規事業開発を推進中。アフリカ諸国での事業を立ち上げるなど国内外でゼロイチに取り組むほか、千代田区御茶ノ水にあるGLIPでコミュニティ作りも展開している。
次の20年に向けた新規事業を目指して

――創立25周年おめでとうございます。 先行企画部はトヨタコネクティッドでどんなきっかけで立ち上がったのでしょうか。
ありがとうございます。2025年10月6日が創立記念日で、本社のある名古屋に全社員が集まって周年イベントを行うので、いま準備に追われています。ちょうど節目を迎えますね。
先行企画部は、5年前の創立20周年のときに立ち上がった部署になります。当社はトヨタ自動車とともに成長してきた会社であり、コネクティッドサービスというトヨタ自動車のオーナーの皆さまへカーライフや、運転の安心安全をサポートするサービス事業が会社のけん引役となっていました。
そんな背景の中、会社として次の20年に向けて新しい事業の柱を立てる決意のもと、先行企画部ができました。ミッションは、4つのビジネスドメイン(MaaS事業、コネクティッド事業、ディーラーインテグレーション事業、デジタルマーケティング事業)に続く独自サービスを作って、5本目の柱にすることです。
――野本様のご経歴を拝見すると、部署が立ち上がった年に入社されたようですね。
御茶ノ水の拠点が2020年7月にオープンして、私は8月に入社しました。実質的に私が先行企画部の第1号社員になります。
――前職は何をされていたのでしょうか。
新卒からソニーで働いていました。エンジニアとしてモビリティなど様々な事業に携わり、やりがいもありましたが、長く勤めているともっと仕事の幅を広げたいという気持ちが出てきたんです。新規事業に取り組むこともありましたが、大きな会社だと役割分担されているため、携わる領域も限定的でした。
そこで職種を変えて、新規事業のゼロイチすべてに挑戦したいと思って転職活動をしました。その中でトヨタコネクティッドと縁があり、おかげさまで、いまは自分の欲していた環境で仕事ができているので、充実した毎日を過ごしています。
――ビジネスインキュベーション室の室長として具体的にどのような業務へあたっているのでしょうか。
社内外の力を借りながら、必要なことは全部やっています。まず、先行企画部の事業戦略を立て、例えば3年後に10億の売上を目指すならば、それを実現できる組織作りと採用活動をしていきます。
事業をプロジェクト化したら、PMO(Project Management Office)を設置して、先行企画部に在籍するエンジニア職や企画職以外の人材も進捗に応じてアサインしていきます。マーケティングやデザイン、リサーチ、営業、広報、バックオフィスも巻き込みながら、事業を推進していきます。
――本当に多岐にわたるんですね。
ですから、新規事業は対外的なイメージと内情のギャップがあると感じています。先進的で華やかなイメージを持たれがちですが、実際はもう毎日が大変で(笑)……。ただそれでも、いかに面白く取り組めるか。自分で考えて、結果も責任も負って仕事ができるところは楽しいですよ。
未来につながるコミュニティ創出を目指す

――先行企画部が立ち上がって5年目です。千代田CULTURE x TECH(千代田カルチャーxテック/以下CCT)にはスタートアップや起業を目指す方がいるのですが、地域との関わりの中で取り組まれていることはありますか?
やはり、新たな価値創出や共創による新事業開発を推進するために立ち上げたGLIPの運営です。千代田区と言えば大企業から中小企業まで様々な会社があり、学生がとても多いですよね。コミュニティ創出を目指して「GLIP Partner Community」も立ち上げて、セミナーや勉強会、ミートアップを開催しています。GLIPの建物は1、2階にスタートアップ企業が入居しており、5階がイベントスペースになっていますので、多様な方が集まるハブのようになってきました。
――例えば、どのようなイベントを開催しているのでしょうか。
勉強会を例に言えば、GLIPを運営するメンバーが興味のあるテーマを設定して、講師の出演オファーから参加者の募集、当日の運営までを行っています。最近ですと「もしトヨタコネクティッドに入って事業検証で500万円使えるなら」というお題を設けて、社会課題の解決に取り組む方をお招きしました。具体的な課題解決の取り組みなどを伺いながら、参加者と質疑応答をして学びを深めていく機会となりました。
この場をきっかけにつながりが広がっていくんです。またGLIPとは別の場所で集まった方もいらっしゃると聞きます。実施回数や参加者数などのKPIでは計れない価値をどう出していくのかを考えてやってきたことが、功を奏しているのかもしれません。
――KPIも大事ですが、それだけではない。
私たちはGLIPに様々な背景を持った方が集まってつながり、学びを得てほしいと思いながら運営をしています。そのようなモチベーションの高い方が集まれば、のちのち共創が生まれてくると信じていますし、良い結果は往々にして後からついてくるじゃないですか。
先行企画部では短期的に利益を出す事業と、中長期的にリソースを割いて結果を出す事業とすみ分けながら新規事業に取り組んでいます。
共創のカギは…「補完し合う関係性になれるか」
―― 新規事業に取り組むとき、アイデアの種はどう創出されているのでしょうか。
経営層からお題となる事業領域を示されたり、新規事業案を持って入社された方がいたり、部内でアイデア出しもやります。ただ、アイデア出しを難しく考えてはいません。
まず、アイデアの種があっても大事なのは、なぜトヨタコネクティッドがやるのか。様々な社会課題がある中で、私たちがやる意味、ストーリーはしっかりと考えています。
また、アイデア出しはアイデアの解像度を上げていくプロセスであって、根本的には自分が日常生活を過ごす中で、課題やニーズを感じていることが大事だと思います。生きていて不便を感じていない人から、アイデアは生まれないと思うんです。ニーズ・課題から仮説を立て、他の人でも同じように感じているのか検証する。モヤモヤしている事象を言語化できれば、立派なアイデアだと思いますよ。
―― アイデアを持った方を採用もされているんですね。
私たちの刺激になっています。中途入社の方に対して、在籍メンバーが寄り添って、当社における仕事の進め方や文化に馴染めるようにサポートしているのですが、新規事業を推進するうえでの社内課題が見えてくるんです。例えば承認プロセスひとつとっても、僕らは当たり前になっているので気が付けないけど、外からの目線だと障壁になる。双方がぶつかることは組織全体としては良い方向に変わるチャンスになります。
先行企画部では、新規事業を円滑に進められるように採用や人事評価、承認方法などの仕組みを改善してきました。歴史を学んで良い部分は守りつつ、新しい風を吹かせられるように取り組んでいます。
――新規事業に取り組む中で、自社でできない技術やリソースを求めてスタートアップと共創する場合もあるかと思います。その時に、相手先へどんなことを求めていますか。
お互いを補完し合う関係性になれるか。これを最も考えています。例えば、生成AIを活用した事業を立ち上げたときは、生成AIに強いスタートアップとアライアンスを組みました。当社には素晴らしいエンジニアがいますが、それぞれ専門性を持っているため、自社でカバーできない分野では外部とタッグを組んで、世の中に無い新しいサービスを提供していきたいと考えています。
一方で、ご一緒するスタートアップには当社の販路や 顧客、トヨタというブランドに魅力を感じていただけるように取り組んでもいます。双方にメリットがないと、長いお付き合いはできませんからね。
――大手企業とスタートアップでは事業を進めるスピードが違うと聞きますが、どうアジャストされているのでしょうか。
スタートアップの皆さんとコミュニケーションするときには、双方の期待値をすり合わせることを特に意識しています。やはりスタートアップの意思決定はとても速いです。GLIPで出会って勉強会を機に意気投合して、具体的に何かを話し合っていきましょうと盛り上がっても、ひと呼吸置く勇気を持つイメージでしょうか。当社では確認・承認のフローがあって、内容によっては経営陣の決裁も必要です。
もちろん、スタートアップの強みは「速さ」でもあるので、それを損なわないようにしつつ、当社もご一緒できるように最大限取り組んでいます。
フラッと立ち寄れるGLIP…「近所の公園のように」

――イベント参加者同士が意気投合して、お話が前に進む事例は、GLIPが生み出す価値ではないでしょうか。
まだまだ、GLIPが千代田区にあってこそ生み出された価値という印象ですが、場の提供を通じて誰かが出会って、何かが生まれて幸せになってくれたら良いなと思っています。良いロケーションにあって、フラっと立ち寄れるので、皆さんには近所の公園のように活用してもらいたいですね。
――GLIPで開催されるイベントには、CCTに所属しているメンバーも参加できますか。
是非いらしてください。CCTの皆さんをはじめ、地域の企業や地元の皆さんと連携できるようにやっていきたいと思います。千代田区は、東京の真ん中にあって文化的な資産も多い。そんなまちの一員として、役割を全うしたいです。
――千代田区ではオープンイノベーションの支援にも取り組んでいます。自社の悩みや課題を持つ事業者さんと、スタートアップ企業等との共創に着手しています。新しいことに取り組む大変さがある中で、事業者の皆さんがよりポジティブに取り組んでいただくため、何かアドバイスできることはありますか。
新しいことをやるのは、大変ですよね。まずは前提から疑ってみてはいかがでしょうか。例えば印刷なら、紙でなければいけないのか。当たり前に縛られてしまって、イノベーションの余地がないというマインドになっているかもしれません。他分野ですが、かつてCDやDVD、ブルーレイディスクの領域で使われていたレーザー技術は、いま医療分野で使われています。 ですから、自分のいる領域と全く違うところの人と話す場を作ってみるのも解決の糸口になると思います。たくさんの方に見てもらえれば、意見やアイデアも出てくるでしょう。技術の応用先は時代ともに陳腐化しますが、技術そのものは生き続けます。経営者の皆さんも広い視野を持てば、きっといい方向に進むのではないでしょうか。
お話を伺った企業

トヨタコネクティッド株式会社
2000年10月設立。豊田章男氏(トヨタ自動車株式会社 代表取締役会長/トヨタコネクティッド創業者)が着手したトヨタ自動車の販売店向け業務改善の取り組みが創業のルーツ。企業理念に「限りなくカスタマーインへの挑戦」を掲げてIT×ものづくりのDNAでサービス開発・提供を行っている。MaaS事業、コネクティッド事業、ディーラーインテグレーション事業、デジタルマーケティング事業の4事業を展開中。代表取締役社長は山本圭司氏。