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なぜ今、スタートアップは神田を目指すのか? 3社連携で仕掛ける『千代田区発』のスタートアップエコシステム
2025年夏、千代田区神田。歴史あるこの街を「スタートアップの聖地」にしようと、3つの企業が手を取り合いました。 顔ぶれは老舗の起業家支援施設「ちよだプラットフォームスクウェア」を運営するプラットフォームサービス株式会社代表取締役の丑田俊輔氏、スタートアップのオフィス環境を支える株式会社NovolBa代表取締役の鄧雯氏、スタートアップ領域の採用支援・人材育成を行う株式会社Sworkers代表取締役の坡山里帆氏(以下、はやまり。)の3人です。なぜ今、彼らは神田という場所にこだわり、連携するのでしょうか。(取材日:2025年12月16日)。

丑田 俊輔(うしだ しゅんすけ)|プラットフォームサービス株式会社 代表取締役(写真左)
大学生時代の授業をきっかけに、ちよだプラットフォームスクウェアの立ち上げに参画。日本IBMを経て、2010年にハバタクを創業した。東京と秋田の二拠点生活中。区内のThink Coffeeがお気に入り。
鄧 雯(とう ぶん)|株式会社NovolBa(ノボルバ)代表取締役(写真中央)
新卒入社した株式会社ミスミを経て、株式会社岡村製作所(現:オカムラ)へ。NovolBa前身となる新規事業プロジェクトに参画、2021年に株式会社として立ち上げ。区内のブックハウスカフェ リリパットがお気に入り。
坡山 里帆(はやま りほ)|株式会社Sworkers(スワーカーズ)代表取締役(写真右)
株式会社サイバーエージェントへ新卒入社。藤田晋社長(当時)とともにスタートアップ企業への投資業務にも従事した。2024年に株式会社Sworkersを創業。Think Coffeeが区内でお気に入り。
約20年前から始まる挑戦…公共施設を「実験場」に変えた先駆者

―― 2004年に開業した「ちよだプラットフォームスクウェア」の立ち上げに、丑田さんは携われました。どんなきっかけだったのでしょうか。
丑田)大学2年のときに受けた授業で、都内のオフィス家具製造会社へインターンシップに行ったのがきっかけです。
当時、ちよだプラットフォームスクウェアの本館は、「千代田区中小企業センタービル」という公共施設だったのですが、稼働率の低さが課題でした。そこで、民間の知恵で施設をまちづくりへ活用するコンペがあり、僕がオフィス家具の組み立てを工場でやっていたら「イスを組み立てるよりも、こっちのほうが面白いぞ!」と声を掛けられたんです(笑)。
―― それは、面白いきっかけですね。約20年前の日本で、インキュベーション施設を運営されるのは、先進的な取り組みだったのではないでしょうか。
丑田)当時は「違う会社同士が同じ空間にいて、セキュリティは大丈夫ですか?」と言われる時代でした。それでも、創業社長の藤倉潤一郎さんが、垣根を越えて共創するコミュニティこそが新しい知やビジネスを生み出していくと確信を持っていました。さらに、公共施設こそ社会実験をやるべきと考え、非営利型株式会社という珍しい形態でスタートしていました。
―― 入居者の顔ぶれは、2004年の立ち上げからどんな変化があるのでしょうか。
丑田)立ち上げ初期はフリーランスやNPO、社会起業家が入ってきました。2011年の東日本大震災以降は、復興支援で地方と都市を行き来する起業家、自治体も入居されて公民連携の動きが出始めました。ここ最近はまだ見ぬ未来を創造していこうという思いを持って起業する人が入居しています。例えば、はやまり。さんのように女性の起業家輩出を目指して、社会に新しい問を投げかけていくような方です。
一方で、企業を定年退職した後に起業された方をはじめ、より上の世代の入居者もいます。生きがいとして事業を作っていく。他の入居者と緩やかなつながりをつくる。そんなことができる場所があって「嬉しい」と言ってくださります。
ですから、入居者の年齢幅は10代から80代まで。僕のように多拠点で生活する方もいます。多地域、多世代が集うコミュニティが、ちよだプラットフォームスクウェアの面白さだと思います。
神田の魅力。「新参者」が神輿を担ぐ、江戸の粋

―― はやまりさんは、渋谷から神田へ拠点を移されました(2025年8月)。どんな理由だったのでしょうか?
はやまり。)女性起業家の育成は1年で結果を出すような短期的な視点ではなく、腰を据えて事業を育てたいと考えたとき、神田の落ち着いた雰囲気に惹かれました。素敵なお店や歴史的な建物も多く、文化と働いている人たちが融合している雰囲気を感じて、私もその一員になりたいと思いました。
もう一つの決め手は、鄧さんのような先輩起業家が「力になるよ」と温かく迎えてくれたこと。地域に根差して活躍されている先輩たちが、本当にウェルカムな雰囲気で接して下さり、お祭りのときは神輿まで担がせていただきました(笑)。
―― 3人が知り合うきっかけは、何だったのでしょうか。
鄧)当社はスタートアップ向けにオフィス家具のサブスクや家具付きオフィスを提供していまして、はやまり。さんが移転に向けて物件探しをする過程で知り合いました。お互いに会話するうちに思いに共感したんです。女性起業家を輩出したいという思いを私も応援をしたくて、丑田さんにも紹介をしました。丑田さんもちよだプラットフォームスクウェアは昔から女性起業家支援をしていたので、ぜひサポートしたいと言ってくださいました。
―― なるほど、そこで共感して一緒にはやまり。さんを迎えることになったんですね!
丑田)ちよだプラットフォームスクウェアがある錦町三丁目町会は、住人の皆さんだけでなく、働いている人たちも受け入れてくれる。粋な江戸っ子カルチャーをお持ちです。
神田には人がつながる接点が多く、歴史のある神田祭はもちろん、神田錦町大歓迎会や神田錦町ご縁日など新しい祭りもあります。町会から前向きに協力もいただけますし、スタートアップの皆さんも前のめりに参加してくれて、両方のコミュニティが近いのでつながりが強くなっているように思います。
鄧)諸先輩方が新参者を受け入れる土壌を作られているので、私たちも新しい取り組みをするときに、相談がしやすかったです。
日本の未来は明るい。女性起業家が当たり前に生まれる未来へ

―― Sworkersでは、女性起業家を輩出する「Project:F(プロジェクトエフ)」を2025年1月よりスタートされています。実際に取り組まれて、発見や収穫など状況はいかがですか。
はやまり。)「Project:F」は、『ルールをつくる女性を、ふやす。』というミッションを掲げて、スタートアップ起業家になりたい方をゼロから育成するプログラム「Female Founders Door」と、女性だけのキャリアカンファレンス「Female Founders Conference」を行っています。
Female Founders Doorでは、いま2期生まで在籍して、約200名の方にプログラムを提供しているのですが、VC(ベンチャーキャピタル)から資金調達をできる可能性の高い方が数名いらっしゃいます。ゼロからでも起業に向けた学びを伝えれば、芽が出てくると手ごたえを感じています。
Female Founders Conferenceは、2025年11月に第2回目をオフラインで開催し、約1,000人の方にご参加いただきました。今まで女性たちのカンファレンスでこんなに多くの方が集まる場を見たことが無かったので、驚きとともに感激したのが正直な気持ちです。私が思っているよりもたくさんの女性たちがキャリアを前進させたい、人生をもっと変えていきたいという思いを持って、日々生きているんだと分かりました。
人生の選択肢として起業も入っている方がいるので、日本の未来はもっと明るいと感じています。
鄧) カンファレンスにはNovolBaも複数名で参加しました。登壇者も参加者もほとんど女性ですが、女性ならではの悩みが共有され、ポジティブな会話が飛び交っていました。
一緒に参加した男性社員からも「めちゃくちゃ刺激を受けました」というコメントがありました。人生を変えたい、キャリアを前進させたいと思う気持ちは、性別や年齢などと関係なく、みんな同じだなと思いました。
3社の連携…「施設・環境・人」が混ざり合うジャングル

―― 3社は「神田をスタートアップの聖地に」というスローガンを掲げて、連携されています。いま、その実現に向けて具体的に動いていることはありますか。
鄧) 私たちは単なる仲良しの枠を超え、神田でスタートアップの活動を定着させていくために2026年1月に、地域全体で挑戦者を支える団体「KANDA Startup Commons実行委員会」(詳細は外部リンクへ)を立ち上げました。
「KANDA Startup Commons」では一人ひとりから湧き上がる思いや社会課題の解決を出発点にしながら、その先にある次世代の豊かさを生み出そうとする挑戦を応援しています。また、参画する皆さんが自分なりの役割をもって関わることを大切にしています。地域の皆さんが関われる土台を作れば、個社支援は難しい方でも、まちを応援したり、支えやすくなると思います。
丑田) 神田エリアで、持続的にスタートアップを生み出すことを考えると、次世代が育って代謝し続けていく仕組みが必要でしょう。NovolBaさんは大学生コミュニティ構築をされていて、歴史をたどれば、このエリアは東京大学などの発祥の地なんですね。ある意味で若い世代が、新しい知を学び合って創造していく土壌があり堆積していった結果、印刷や出版、ゲームやアニメなどのIP(知的財産)をクリエイトする企業や人が集まり、神保町や神田・秋葉原のカルチャーができあがったと思います。
そこに官公庁や行政、大企業が関わって、その多様性の幅が広いのもこの地域ならではだと思っています。地方から来る人にとっても、東京駅は一つのハブになって、それでまた多様性のひとつを形成します。そういうジャングル感は、面白いですよね。
―― はやまり。さんがいらした渋谷区は、昔からスタートアップが生まれる街と言われています。その意味で“環境”が大事だと思うのですが、移転されて千代田区らしさはどう感じていますか。
はやまり。)神田がある千代田区は様々な方々が一緒に何かを生み出すマインドを持っていると感じています。我々スタートアップサイドとしても地域に貢献したいという気持ちがわいて、コラボレーションを生みやすい地域だと思います。
丑田) 理想は「職住近接」ですね!
はやまり。)住めたら、最高ですね!
丑田)いま私たちがいる「錦町ブンカイサン」も、20代の方たちのシェアハウスがあります。若い世代がこの街に住み、事業を営み、夜は地元のバーで語らう。そんな代謝し続ける仕組みがあれば、中長期に地域インパクトも出せると思っています。

お話を伺った企業

2004年2月設立。官民連携による、まちづくり拠点施設の企画運営を行う。「ちよだプラットフォームスクウェア」や、人と事業と文化がそだつビルをコンセプトにした「錦町ブンカイサン」などを手掛けるほか、地域活性化や交流促進を目的にイベントやお祭りも開いている。

2021年11月、株式会社オカムラと株式会社ボーンレックスのジョイントベンチャーとして設立。「挑戦するスタートアップの成長を支える」をミッションに、スタートアップ向けにオフィス家具のサブスクリプションサービスなどを提供している。また鄧 雯氏は、オカムラグループ初の女性代表取締役。

2023年2月設立。『スタートアップに挑む人を、ふやす。』をミッションに掲げ、スタートアップ特化の転職エージェント「Sworkers Agent」に取り組むほか、2024年より女性起業家を輩出する「Project:F」をスタートさせた。社名は“Start Up”と“Works”をミックスさせて命名されている。