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記事・コラム
待つをなくすことを当たり前に。バカン(VACAN)が目指すやさしい世界
商業施設に行ったら混雑でどのお店も行列。トイレに行ったら並んでいてなかなか入れない。そんな経験は誰にもありますよね。
空いているお店が見つからず帰ってしまったり、一緒にいる人を待たせてしまったり。
株式会社バカンでは、「いま空いているか1秒でわかる、優しい世界をつくる」をミッションに、無駄な「待つ」をなくすためのプラットフォーム(VACAN)を構築・運営しています。
現在は多数の民間施設や行政サービスにも導入され、海外展開も見据えるバカンの創業者・河野氏に、事業を始めたきっかけやこれまでの歩み、コミュニティに対する期待について、お話を伺いました。
株式会社バカン 代表取締役 河野剛進 氏
東京工業大学大学院修了(MOT)。
画像解析や金融工学のバックグラウンドを持ち、株式会社三菱総合研究所で市場リスク管理やアルゴリズミックトレーディング等の金融領域における研究員として勤めた後、グリー株式会社にて事業戦略・経営管理・新規事業立ち上げ、および米国での財務・会計に従事。 その後ベンチャー企業の経営企画室長やシンガポールでの合弁会社の立ち上げ等に従事した後に、株式会社バカンを設立。 社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
混雑状況の可視化で「待つ」をなくす。様々な領域で広がるバカンのサービス
―― 事業内容を教えてください。
AIやIoTを活用したリアルタイムの混雑解析を主軸として、都市に展開できる様々な機能を有するプラットフォームを構築・運営しています。
サービスとしては、駅構内、飲食店、トイレ、空港の保安検査場、お祭りなどのイベント、投票所、避難所の混雑状況など、いろんな空間の可視化から、空間の行列や座席をマネジメントしていくようなプラットフォームです。
施設運営をしている民間企業や、駅や空港などの交通関連領域、駅に直結する商業施設やスタジアムなどからのご相談が多いのですが、最近は行政や地方自治体からのお問い合せも増えてきている状況です。
―― 自治体からのお問い合わせは、具体的にはどういったものですか?
例えば投票所の場合、期日前投票はいくつかの投票所から投票場所を選べたりするのですが、「すごく並んでいて、来ても帰ってしまう人がいる」というお話がありました。
そこで、混雑状況を見える化して、空いている投票所や混雑している時間を確認できる仕組みを導入いただいています。
避難所の場合ですと、最近はコロナ対策やプライバシー対策のために避難所でテントを張るようになってきたのですが、対策をしっかりすると今度は受け入れ可能人数が減ってしまうんです。そうなると「行っても入れない」ということが起こるので、どこの避難所が空いているのかをリアルタイムで、地図上で見れるように対応していたりします。
現在は200以上の自治体に導入いただいていて、全国1万カ所以上の避難所のリアルタイムの混雑状況が見える化されています。
―― 混雑状況の可視化以外に導入事例はありますか?
例えば、カフェの座席予約です。
カフェでは誰も座席を管理していないので予約ができないですよね。
席が空いていなければお客さんは帰ってしまうので、行列をつくって並ぶような事業形態でもないんです。
そういう状況をなくすために、座席の空き状況をリアルタイムで確認できるようにして、空いていれば、そのお店に行かなくても座席の取り置きができて確実に座れるような仕組みを作っています。
―― 利用状況のデータを活かして、運営側などと連携することもあるのでしょうか?
例えば、トイレの混雑状況の可視化を取り入れている百貨店があるのですが、百貨店は2階の女性トイレがすごく混むところが多いんです。
その状況を見たときに「混んでいない男性トイレをなくして女性トイレにしよう」という改装案があったのですが、実際にデータを取ってみると、2階の女性トイレは混んでいるけれど、3階以上のトイレは空いていて、男性トイレはそもそもの数が少ないために満室率が高いことがわかったんです。
なので、「改装することはやめて、2階の女性トイレの利用者を上層階へ誘導するための情報提供をしよう」となった事例があります。
また、前述のカフェの事例ですと、これまでは“座席がどう使われているか”を運営者側は把握できていなかったところ、利用状況が見えるようになって必要な対策を取れたことで、売上が上がった事例もあります。
無駄な「待つ」をなくすことで他人にも優しくなれる。そんな連鎖を起こしたい
―― この事業で起業しようと思われたきっかけはありますか?
結婚して子供が産まれて、子供を連れて商業施設に行ったときにすごく混んでいて、ランチで空いている場所を探しているうちに、子供が待ちきれずに泣き出してしまい「もう帰ろうか」となったことが始まりです。
そういう経験を何度か繰り返すと外出自体が嫌で怖いものになってしまう。それってすごくもったいないなと思いました。こうしたマイナスの経験をなくすことができれば、限られた時間を最後までもっと大切に楽しく過ごすことができるんじゃないかと。
無駄に待つことがなくなれば選択肢が増えて、心の余裕も持てるようになるので、他の人たちにも優しくなれる、それによって社会全体がもっと良くなっていく、そういう連鎖が起こせるんじゃないかと思い、この会社を立ち上げました。
―― 起業すると決めたとき、奥様からはどんな反応がありましたか?
学生時代から「10年以内に起業する」というのは決めていたので、妻からは後押ししてもらえました。
起業する前にやってよかったと思うのは、妻から「家の貯金と、今後の出費とかに関する計画を出して」と要望を受けて、実際にやったことです。
会社に関しても、家に関しても、「2年間は資金繰りに問題がないか」とか「この費用はいらないよね」ということを妻と一緒に確認して、数ヶ月間は出金の履歴も妻に見てもらったりして、「これなら大丈夫だね」ということで後押ししてもらいましたね。
―― 学生時代から起業を考えていたとのことですが、学生時代に取り組んでいたことはありますか?
学生時代は普通に勉強することをまずしっかりやって、その中で「何かを生み出す」ことをやりたいなと思いました。
当時はあまり盛んではなかったインターンシップにも積極的に参加して、ブラウザを作るIT系のスタートアップでマーケティングをやったり、開発をする会社でエンジニアをやったり、映画を作る会社でプロデューサーをやったり、やりたいことは結構やらせてもらいました。
―― いろんなことを経験されたのですね。
私が宮崎県出身で、地元が大好きなんですが、当時「シャッター街」の“シャッター”すら見られなくなっていく地元の状況を見て、自分がなにかを生み出すことによってシリコンバレーのような「田舎っぽいけど活気があって、みんなが希望に溢れている」、そんな環境を生み出すサイクルを作りたいと思いました。
自分が何かを生み出していければ、大好きな地元に貢献できるんじゃないかと。そういう思いで、当時から起業することを決めていたので、そのために動いていましたね。
創業初期に苦労したこと
―― 創業当初の仲間集めはどのようにされたのですか?
最初は、大学のときの同級生や過去に一緒に働いたことがある人など、もともとの知り合いに声をかけました。当時のメンバーはいまでも活躍してくれています。
ただ、やはり創業後すぐは「会社、大丈夫なの?」という声も多くて、家族からの同意がなかなか得られないことや、結婚している人の場合は奥さんが心配するケースもありました。
なので、家族イベントをして集まる時間を設けたり、家族向けレターを出したり、ニュース記事を読んでもらったり、実際の現場の写真を見てもらったり、サービスを使ってもらう企画をしたりして、少しずつ安心してもらえるようにしました。
―― サービスを開発するにあたり、特に苦労した点は何ですか?
苦労したことは沢山あるのですが、1つは、ハードウェアの開発です。
ハードウェア開発の経験がなく、大規模なことは資金がないとできないので、自分たちで家庭用の3Dプリンターを作って使ったりしたのですが、ガタガタで品質が低くて。
実際に現場で使おうとすると動かなかったり、壊れたり、コードをネズミにかじられたり、予期しない問題がいろいろ起こりました。なので開発プロセスをしっかり整備して、品質基準のようなものを設けて、段階的に品質を高めていきました。
もう1つは、創業当初、システムを開発することには意識を向けていたけれど、運用に対してリスペクトが足りていなかったことですね。
どういうルールで機器を集め、届いたものを開けてアプリを入れ、センサーと紐づけるのか。
各分野のプロフェッショナルに加わってもらい、「バカンオペレーショナルエクセレンス」という活動を取り入れてオペレーションを可視化し、運用を担う人たちのモチベーションを上げるなど、環境を改善させるサイクルを作ったことでオペレーションを改善できるようになり、はじめて数を確保できるようになりました。
東京都のアクセラプログラムに採択。ピッチイベントでの受賞や優勝が信頼感に
―― サービスを開発する際に助かったことはありますか?
助けてもらった経験しかないくらいなのですが、創業直後に東京都の「ASAC(青山スタートアップアクセラレーションセンター)」のプログラムに採択してもらえたことでしょうか。
そこで同じフェーズの起業家仲間と出会えたり、東京都の方たちと繋がることができたり、大企業とのネットワークができたり、資金調達やPRなども伴走サポートしてもらえました。
そこから他のピッチイベントなどにも呼んでもらえるようになり、そこで受賞や優勝したことで段々信用がついてきて、創業当初に心配の声をいただいていた社員のご家族にも、段々安心していただけるようになったと思います。
―― ピッチスキルは、アクセラレーションプログラムで磨いたのですか?
そうですね。初期のものは、いま見返すと本当にひどいスライドだったなと思います。プレスリリースも書いたことがなかったので、最初はすごく添削していただきました。当時自分が書いたプレスリリースは、いまでも添削支援の際に「どこが悪いのか」の例として、匿名で使われていると聞いています(笑)
―― 行政の支援などは、やはり積極的に受けるべきでしょうか?
はい。「東京都から選んでもらえた」といったことは安心感にも繋がりますしね。
特に創業初期のスタートアップは“怪しい”と思われることが多いと思うんです。そういう時期に「お墨付き」を与えてくれるような取り組みは非常にありがたいと思います。
千代田区は「繋がりを求める人が集まりやすい」。コミュニティに期待すること
―― 2023年11月に千代田区へ本社事務所を移転していますが、千代田区に移転した理由やきっかけはありますか?
「クライアント、パートナー、採用候補者がアクセスしやすく呼びやすい」というのが大きな理由で、この場所にオフィスを構えるメリットだと思います。あとは、「安心感を持ってもらえる場所」ということも、千代田区に移転した理由の1つです。
現在はコワーキングスペースのあるレンタルオフィスに入居していますが、コミュニティを運営されていることにも期待していて。まだ入居間もないので実際どうかはわからないのですが、他の経営者との繋がりなどが生まれると嬉しいなと思っています。千代田区は「繋がりを求める人が集まりやすい」というのも魅力ですね。
―― 千代田CULTURE×TECHや千代田区に期待すること、あると良いなと思うサービスなどはありますか?
千代田区さん自体と密に繋がっていけるとすごく嬉しいですね。特に我々のようなスタートアップは、自治体と繋がることがなかなか難しくて。イベントなどを通して会うことができれば安心してもらえることもあると思うので、そういう場があると嬉しいです。
あとは、区内の大企業の偉い方たちがいらっしゃるイベントに参加させていただけるとか、初期のスタートアップの場合ですと、PRや資金調達の仕方がわからないこともあると思うので、認知度向上のための支援やアクセラレーションプログラムのような取り組みもあると良いのかなと思います。
バカンのサービスを国のインフラに。そして世界へ
―― 今後の展望を教えてください。
まずは、いまやっている民間・行政向けのサービスを日本全国に広げていきたいと思っています。避難所への導入もまだ200自治体なので、1700以上自治体があることを考えると、まだまだ足りていない状況です。バカンのサービスが国のインフラになるくらいのレベルにもっていきたいと思っています。
将来的には日本だけでなく地球の裏側まで、我々のサービスが使われることが当たり前になるように展開していきたいです。まずは中国やインドなどのアジア圏に広めていって、その後ヨーロッパなどを狙っていきたいです。
―― 最後に、読者に向けて一言お願いします!
「待つをなくす」ことを当たり前にして、やさしい世界を作っていきますので、期待していてください!
お話を伺った企業
株式会社バカン
「いま空いているか1秒でわかる、優しい世界をつくる」をミッションに、AIやIoTを活用したリアルタイムの混雑解析を主軸として、都市に展開できる様々な機能を有するプラットフォームを構築・運営。
全国各地の民間企業や行政サービスなどに利用が広がっている。