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ビジネスコンテスト2024受賞者インタビュー|株式会社27th

2024年3月19日(火)、「千代田CULTURE×TECH ビジネスコンテスト 2024」を開催しました!

千代田区内のスタートアップが自身のビジネスプランをもとに外部審査員による評価を受けることが出来るだけでなく、資金調達やネットワーク拡大のきっかけを提供することでスタートアップのさらなる成長を加速させるために実施した本コンテスト。

事前審査を通過した登壇企業計7社の中から上位3社に「千代田CULTURE×TECH AWARD」と、5月に開催される「SusHi Tech Tokyo 2024 Global Startup Program」での事業紹介特典を進呈しました。

今回は上位3社に選出された株式会社27thの代表取締役・楢󠄀村紘史氏に、コンテストの感想をお聞きするとともに、起業までの歩みや事業化までの苦労、今後の展望について伺いました。

株式会社27th 代表取締役 楢村紘史 氏

京都大学大学院 理学研究科修了(数学・数理解析専攻)。2010年4月ボストン コンサルティング グループ(BCG) に新卒入社。プロジェクトリーダーとして主に新規事業創出・DX・事業再生等のプロジェクトを担当。また、研修資料作成・研修講師、中途採用チームとして採用面接・採用プロセス改善も担当。2022年4月に株式会社27thを創業し、2023年7月に日本文化と日本語を学べるオンライン会話サービス「gokigen japanese」の提供開始。

日本文化と日本語を学べる

―― 「gokigen japanese」という日本語学習のサービスプラットフォームを運営されていますが、事業内容を教えていただけますか。

弊社はオンラインの日本語学習サービスを提供しております。いわゆる英会話の日本語版です。主なユーザーは北米やヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドといった英語圏の方です。

日本語学習の市場は、これまでは主にアジアから日本へ就労を目的とした学習者向けに、日本語学校で「日本語」を使って「日本語」を教えるという直接法が一般的でした。しかし、最近新しい市場が生まれつつあります。Netflixなどネット配信が普及する中で、日本語のコンテンツに触れる機会が増えているため、欧米を中心に日本文化への興味喚起で日本語を学んでみようというニーズが増えています。

我々は、そのニーズ向けに日本人講師がオンラインで「英語」を使って「日本語」を教える間接法で、レッスンを提供するのが特徴になります。

―― サービス利用者が学習を継続していく仕掛けはありますか。

今まさにトライしています。
例えば、アニメや漫画を見て日本語に興味を持った初級者を想定して、文法や会話の学習教材の中に、学んだ文法が使用されている漫画コマを使った解説のページを入れています。

その他には豆知識の位置付けでcoffee breakがいくつかあり、例えば、日本語ではなぜ主語が省略されがちなのかを、ハイコンテクスト(以心伝心が通じやすい)な日本の文化的な特徴と合わせて解説しています。

一方で、中級者以上のレッスンで使用する記事教材では、おせち料理や節分など、海外の方が興味を持つようなテーマで多数の記事を用意しています。記事の内容を、日本と自国の文化を比較しながら講師とディスカッションするのが特徴ですね。

中級者以上の利用者は学習にも意欲的で、講師とのディスカッション時も初めこそ英語で話す割合が多いのですが、だんだんレベルも上がって日本語で議論できるようになっていきますね。

―― このサービスは、漫画を活用していますが、コンテンツは権利元との調整が必要になると思います。実際の調整や交渉はいかがでしたか。

教材で取り扱う漫画のコマ利用は、講談社と権利者様より許可をいただきました。また、今回『進撃の巨人』の取り扱い許可をいただきましたが、教材で使う漫画のひとコマがネタバレに繋がるものではダメだろうという話もあって、選定に苦労もありましたね。

自信を持って提供できる教材にするため、何度も漫画を読み返して、日本語の解説にも適したセリフやシーンを探して使用するコマを選びました。

起業に向けて約50名の海外の方へインタビューも

―― 日本の文化に興味を持つ方を対象にした語学ビジネスのアイデアを得たきっかけはありますか。

きっかけは、インターネットの記事※です。
シリコンバレーのエンジニアが、日本語を学び始めているという内容に、とても驚きました。私は2020年に会社を辞めて、留学を経て起業しようと思っていましたが、コロナ禍で留学を断念して起業ネタを探していたところだったんです。

その時、私は留学に向けた英語の勉強でとても苦労していたので、シリコンバレーの方が習得の難しいと言われる日本語を学んでいる話を知って興味を持ち、50名ほど海外の方へインタビューもしました。「なぜ日本語を勉強するのですか?」と。そうしたら、英語圏の方は「日本の文化に興味があるから日本語を理解したい」という動機がすごく強かった。

そこで、日本文化と日本語を学べるオンライン会話サービスを提供するというサービスコンセプトを考えました。起業できる可能性も段々と見え、色々と事業を考える中で、このサービスなら世界へ日本のコンテンツを提供しながら、やりがいや面白さを一番感じることが出来ると思いました。

―― 偶然にも記事を見つけて、日本語のオンライン学習サービスの開発に繋がっていったんですね。

記事にはたまたま辿りつきましたが、前職はBtoBの法人向けサービスをしていたので、起業するときはBtoCの個人向けサービスをやりたいと思っていました。あと、留学に向けて英語の勉強をしていたので、少なからず語学学習の難しさや、語学学習者の気持ちが分かりますし、英語を使って海外向けのビジネスをやりたい考えもありました。色々な背景が繋がって生まれたサービスですね。

―― 前職を辞めての起業ですが、もともと起業を考えていたのですか。

もともとは考えていなかったです。大学では物理学、大学院では数学を専攻していたので、学生時代は研究者志望でした。ただ、その道が難しいと見えたため、就職活動をしたんです。色々な物事を考えて理解することが好きだったので、それが価値に繋がる仕事をしたいと思った中で、経営コンサルティングファームの仕事に魅力を感じ、ボストン コンサルティング グループに就職しました。

そして入社後、新規事業のプロジェクトを多数経験する中で、自分で事業をゼロから立ち上げてみたいと考えはじめました。コンサルティングの仕事も前職の職場も大好きでしたが、私は先々どうなるか分からない状況を楽しめる性格でもあるので、人生に刺激を与える意味でも起業という挑戦を決めました。

ちょうど入社して10年目のタイミングでもありました。仕事を通じて事業構築の知見がたまっていたのも、一歩を踏み出す上で大きかったです。

審査員よりサービスが「千代田区」と合っていると評価

左:楢村氏 / 右:審査員を務めた、i-nest capital株式会社 代表パートナー 山中 卓氏

―― 「千代田CULTURE×TECH ビジネスコンテスト 2024」に応募しようと思った理由を教えていただけますか。

実はコンテストの応募締め切り間際まで、開催を知りませんでした。たまたまスマホでコンテストの広告が目に入って、それを見た瞬間に「千代田区」で「カルチャー」ということで、私のサービスと合っていると感じて応募しました。

―― 登壇した感想はいかがでしょうか。当日に意識したことはありますか?

まず会場に、すごく沢山の人がいて驚きました。当日に意識したポイントは、審査員の方が何を見ているかです。起業の思いを伝えて欲しいという方もいれば、ビジネスの実現性に着目された方もいました。

登壇にあたっては、5分間の持ち時間で何を伝えるか考えましたね。当初、ピッチでビデオを使うつもりは無かったのですが、時間も限られていたので話すよりもビデオを1、2分流した方がサービスのイメージが伝わると思って、プレゼンの内容を変えました。5分という時間も結構長いと思っていましたが、いざ練習したら足りなくて(笑)。何度か練習をして臨みました。

―― 見事「千代田CULTURE×TECH AWARD」を受賞されましたが、いかがでしょうか。「SusHi Tech Tokyo 2024 Global Startup Program」(以下SusHi Tech Tokyo)へ出展できる特典も進呈されました。

サービスの特徴と、漫画やアニメの盛んな秋葉原や神保町といった千代田区の特徴が合っていると評価いただきました。自分が千代田区にいたのに、そうした特徴をいかせていなかったので、新しい気づきを得られたと感じています。

SusHi Tech Tokyoには行けたら嬉しいと思っていましたが、その特典が無くても応募をしていたと思います。金銭的な支援のあるビジネスコンテストもありますが、弊社のような海外の方が使えるサービスを展開している企業にとって、SusHi Tech Tokyoへの出展は賞金と変わらないぐらい嬉しい特典です。

―― ビジネスコンテストでは交流会もありました。何かお話はされましたか。

私は、これまでサービスのターゲットを広く捉えていましたが、審査員の方からターゲットを絞っていく考え方をアドバイスいただきました。他の登壇者の方とも、使っている施設の情報交換やサービス開発の苦労話など、お話ができました。弊社はVCなどが入っていないので、あまり横の繋がりがない分、あの場はありがたかったです。

―― 5月のSusHi Tech Tokyoに期待していることはありますか。

SusHi Tech Tokyoはグローバルな展示会だと思うので、海外からいらっしゃる法人と個人、両方の出会いを期待しています。
法人で言えば、日本のスタートアップに興味がある法人の方と、ご一緒できれば良いですね。

個人で言えば、日本語の学習をする方も来場されると思うので、その場でサービスを知ってもらう機会になれば嬉しいです。
“漫画”のコマを活用した教材もひとつ、興味を持っていただけるフックになると思っています。

「海外の方の心理的な障壁を取り払ってサービスを伸ばしたい」

―― 千代田CULTURE×TECHのコミュニティや、千代田区に期待することはありますか。

コミュニティで言えば、起業をしている方が集まって話せる場があると良いですね。起業からのフェーズが近い方同士でお互いの悩みを共有したり、情報交換したり、知り合えたりすると、すごくありがたいです。補助金など制度融資の話もいただけると、助かります。

ただ、それ以上に私は先日のビジネスコンテストのような場をいただけるのが、とても良いなと思っています。お金にならなくてもサービスの発表ができて、賞をいただければ、スタートアップとしての信頼に繋がります。今日インタビューしていただきましたが、記事になるだけでも我々としては嬉しいですし、SNSで発信すれば周囲の方が反応もしてくれます。

―― ありがとうございます。今後の展望をお願いいたします。

いま、サービス登録者がたくさんおりますが、短期的にはサービス登録後、講師とのトライアルレッスンに予約して参加する方を伸ばしていく必要があります。語学初級者の方が日本語を喋れない場合、学びのハードルもあるでしょうが、我々の講師は英語を話せます。その安心感もアピールしながら、海外の方の心理的な障壁を取り払ってサービスを伸ばしてきたいです。

そして中期的には2つあります。
ひとつは個人向けサービスへのAI活用です。日本人講師との会話という価値にこだわりつつ、それをサポートする位置付けでAIとの会話ができるようにして、学習効率を高めるイメージです。

もうひとつは、法人向けにサービスを提供したいと考えています。今、NPOとタッグを組んで難民向けに無料で日本語学習サービスを提供する取り組みを準備しているので、それを発展させるイメージです。日本語で困っている海外の方の手助けをしてきたいと考えています。

長期的には、海外と日本をつなぐ場所になりたいですね。私のサービスが海外向けに漫画やアニメなど文化の魅力を発信する場になり、日本の文化やコンテンツの未来に貢献できたら良いなと思っています。そんなゴールを目指して、サービスを大きくしていけるよう頑張っていきます。

―― 最後に、読者に向けて一言お願いします。

今回のビジネスコンテストに参加するまでは、千代田区という立地をあまり自分が意識できていませんでした。しかし、実は千代田CULTURE×TECHなどの新しい試みが始まっていることが分かり、今後は千代田区の起業支援や、千代田区内の企業・大学などとの繋がりをもっと活かしていきたいと感じました。また、私もこれまで新規事業の立ち上げや支援をやってきた知見があるので、区内で起業を目指す皆様のお手伝いができると思います。ぜひ、ご一緒できればと思います。

※ シリコンバレーで日本語が熱い! 以前とは違う彼らが学ぶ理由(2020.03.13掲載)-朝日新聞
https://globe.asahi.com/article/13202192(リンクは外部サイト / 朝日新聞)

お話を伺った企業

株式会社27th
日本語と日本文化を学べるオンライン日本語会話サービスを提供する。日本文化(アニメ、日本食、歴史など)への興味を起点に、欧米在住・出身者を中心とした英語話者に対して、英語のサイトとオリジナル教材を使って、英語が堪能な講師が日本語を教えている。