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透明性があり安心安全で美味しいペットフードを提供したい。明治大学発スタートアップ・Sympalの挑戦

ペットには美味しくて安全なフードを食べて長生きしてほしい。ペットを飼っている人は誰もがそう思って毎日食事を与えていると思います。

ですが、実際に日本で販売されているペットフードには課題が多く、気づかないうちに体に良くないフードを与えてしまっていることもあるようです。

2023年に創業したSympal株式会社は、そんな日本のペットフード業界に一石を投じ、ペットの健康寿命延伸を目指す明治大学発のスタートアップ企業です。

学生時代から事業化に向けて行動を続け、間もなく商品の販売開始を迎えるSympalの代表取締役・合田圭佑氏に、これまでの歩みや商品にかける想いを伺いました。

Sympal株式会社 代表取締役 合田圭佑 氏

2021年3月に明治大学 農学部 農芸化学科を卒業。2023年3月に明治大学大学院 農学研究科 農芸化学専攻を修了し、大学院在学中の2023年3月「第1回明治ビジネスチャレンジ」で優秀賞を受賞。同年6月にそのチャレンジの第一号ベンチャーとして、Sympal株式会社を創業する。

犬用オーラルケアサプリメント(2024年9月販売開始予定)とライフステージに合わせた高品質なドッグフード(同年冬頃販売開始予定)のブランド「mydish」の開発を進めている。ペット栄養管理士(ペット栄養学会学会員)

動物への貢献を考える中で「食」に着目。大学のサポートを受けて卒業後に起業

―― 合田さんは大学卒業後すぐに起業されていますが、起業したいと思ったきっかけはありますか?

以前からペット業界に携わりたいという気持ちがありました。大学1年生の頃は動物病院を見学させていただいたり、夜間の救急救命センターで1日の流れを見させていただいて獣医さんと話したり、ペット関連の会社を経営している社長さんにFacebookでアポを取って話を聞いたりして、どうすればワンちゃん猫ちゃんに貢献できるかを考えていました。

また、私は実家でトイプードルを飼っているのですが、生まれつき肝臓が悪く、食事に気をつけていました。しかし、食べムラがひどく、1食に30分かかることや食べてくれないこともしばしばありました。いくら栄養に気を遣っても食べてくれなければ意味がないですよね。そこで、飼い犬が食べることを嫌がっているドッグフードに興味を持ち始めたのです。

それから衛生学とペットの栄養学を学び、食品とペットフードの違いを調べていくうちに、ペットフードは食品ではなく「飼料」に近い扱いをされていることがわかりました。「食品と同等のペットフードがあってもいいはず」と思い、起業を考え始めました。

―― 実際に起業されてから事業を進めるにあたり、助かったことはありますか?

これはもう、明治大学のサポートに尽きます。
明治大学は卒業生が多いので、起業された方や大企業に勤めているOB、OGの方をご紹介いただきつながることができました。

創業初期は経営基盤が全くないので、会計処理、契約書の作成などのバックオフィス業務は多くの卒業生からアドバイスをいただいています。また、展示会に行くと明治大学農学部の先輩方と出会うことも多く、右も左もわからない私に助け舟を出していただいています。社会に出て、明治大学のつながりや温かさに大変助けられており、感謝しています。

―― 大学からサポートを受け始めたのはいつ頃ですか?

博士前期課程1年のときに明治ビジネスチャレンジ(※1)に出場して優秀賞を取ったことで大学からサポートを受けられるようになりました。

ビジネスコンテスト発の1人目の起業家ということもあり、私から細かな進捗報告やお願いをし続けて、齟齬がないようにコミュニケーションを取り、大学に助けていただいています。

※1. 明治ビジネスチャレンジ:明治大学経営学部が主催する学内ビジネスコンテスト。合田さんが出場した第1回は2022年11月~2023年3月に実施。

ペットフード業界の課題と開発にあたっての苦労

―― 起業後は「食品クオリティのペットフード」の開発に着手されていますが、日本のペットフードが抱える課題を教えてください。

「ペットは家族」と言われて久しいですが、“食”に関しては追い付いていません。

日本の制度上の問題もあり、例えば、原産国が「日本」と書かれていても、ペットフードでいう原産国とは「最終加工工程を完了した国」を指します。そのため、国産の原材料を使っていなくても国産と名乗れる可能性があり、商品パッケージの裏面の原材料表示を見てもどの国のものを使っているのかわかりません。

また、人間の食品の場合は「含まれている量が多い順に記載する」というのが一般的なルールですが、ペットフードの場合はそういった記載順序の規定がありません。

飼い主さんは「お肉が1番多く入っているものが良い」と商品を選ぶ方が多いのですが、実際市場に出ている商品は、「お肉が少なくてもマーケティング的に1番前に記載してお肉が多く入っているかのように見せる」など、いろいろと表記できてしまう状況(※2)です。

その他、工場の衛生面や加工の法律も食品と比べると厳しくありません。食品加工で使われなかった副産物がペットフードの原材料に使われている事例は非常に多いです。
「日本の農産物は安心安全」と言われることが多いですが、日本のペットフードは安全性の面で後れを取っている状況が見受けられます。

※2. ペットフード公正取引協議会に加入している会員を除く

―― 開発されているペットフードのアイデアは、いつ頃から考え始めたのですか?

私が「食品工場で作るペットフード」という事業を考え始めたのは2017~18年頃なのですが、そのときはアイデアを持っているだけでした。

そんな中、同様の概念で事業を行っているアメリカの企業の存在を知り、自分のアイデアに確信を持ちました。この企業の商品は冷凍タイプで販売されているのですが、アメリカの家庭は冷凍庫がすごく大きいのに比べ、日本はキッチンも小さいので冷凍庫も小さく生活様式も違うため、日本では常温で提供する方が良いと考えました。

さらにコロナウイルスの影響で日本では冷凍食品の需要が高まり、人間の冷凍食品の保存が増えているところに更にペット用を入れる余裕があるのか、という仮説がありました。ヒアリングを行ったことで、この仮説が正しいこともわかりました。

こうした理由から「mydish」は『レトルトで常温提供する』というコンセプトで開発を行っています。安心・安全・美味しいだけでなく「無理なく続けられる」ことも重要と考えています。

―― 商品を開発するにあたり、特に苦労したことはありますか?

大きく2つあり、1番苦労したことはペットフードを作ってくれる食品工場を見つけることです。

食品工場では他社の製品も作っているため、 “ペットフードも作っている”ということが取引先やお客様からの批判につながる可能性がある、という理由から断られることが多かったのです。

製造ラインを新たに作るケースもあるのですが、人手不足が原因で対応いただくことが難しく、工場が見つからないというのが1番大変でしたね。

もう1つは栄養ブレンドを行う工場との交渉です。
弊社のドッグフードは、ビタミン・ミネラルといった栄養素を処方組みしてオーダーメイドの栄養ブレンドを作っています。ですが、人間用のサプリメントを調合している工場でペット用に調合してもらうことも、食品工場のケースと同様に断られることが多く苦労しました。

ペットフードに加えオーラルケアサプリの開発も。「ひと皿に、もっとできること」を届けたい

―― Sympalの事業について教えてください。

現在行っている事業は大きく2つです。
1つは健康食品やペットサプリ、ペットフードの受託開発事業。もう1つは、食品工場で作ったペットフードと犬用オーラルケアサプリのブランド「mydish」の開発・販売です。オーラルケアサプリを先行して2024年9月に販売開始予定で、ペットフードは2024年冬頃からの発売を考えています。

―― 当初はペットフードの開発がメインだったと思いますが、オーラルケアサプリの開発も始めたんですね。何かきっかけがあったのでしょうか?

ペットフードの開発で懇意にしていただいている沖縄の工場から、“歯垢形成を抑制する特許成分”を使って何かペット向けの商品を作れないかという相談をいただいたことがきっかけです。普段は人間用の商品を販売している工場なのですが、社長さんが犬好きという背景もありお話をいただきました。

その特許成分は、ペットの口腔環境を整えたり、口臭を軽減したりすることが証明されていました。飼い主を対象にした弊社のユーザーヒアリングで愛犬の口腔内の悩みが非常に多いこともわかっていたため、商品化することを決めました。

mydishのブランドコンセプトは「ひと皿に、もっとできること」なので、普段の食事に取り入れられる、ふりかけタイプのオーラルケアサプリを開発することにしました。

―― ペットフードとオーラルケアサプリ、それぞれのこだわりポイントはどこですか?

ペットフードについては、「食品工場で作っている」「老化に対してアプローチしている」ことがポイントです。原材料や加工に関する透明性と、安心安全を意識して開発を行い、愛犬の健康維持に貢献します。

含まれている原材料は多い順に記載し、産地も載せるだけでなく、農家さんの顔も見せるように、トレーサビリティを意識しています。
また、品質が高い国産の農産物を原材料に入れ、加工も食品工場で行うためHACCAP(ハサップ:衛生管理の国際的な手法)が取り入れられているなど、安全面にはかなりこだわっています。

透明性があり安心安全で美味しく、そして健康に良い。この点を意識しており、最終的にはペットフードではなく、食品として人間も食べられる形での販売を目指しています。

オーラルケアサプリのこだわりポイントは3つあり、「完全無添加で天然由来の成分」「沖縄の原材料を使用している」ほか、日新製糖株式会社の特許成分「CI Dextran mix(原材料名:環状イソマルトオリゴ糖)」を使用していることです。

やはり沖縄の工場からいただいたお話なので、沖縄の原材料を使いたい想いがありました。添加物を入れず、全て天然由来の成分を使うことにもこだわり、月桃やモリンガなど沖縄特有の原材料は、実際に農家さんを訪問して決めました。日新製糖株式会社の特許成分「CI Dextran mix」も、犬猫の歯周病原因菌のバイオフィルム(プラーク)形成を抑制する効果をもつ沖縄生まれの成分です。

普段の食事にふりかけるだけで手軽にオーラルケアができる商品です。

―― ペットフードは「ライフステージに合わせた」とホームページに記載がありますが、いろいろな種類を用意されるのでしょうか?

はい。まずは加齢に対してアプローチできる商品、その次に腎臓や皮膚疾患に悩むワンちゃんのための商品の販売を考えています。

2022年から2023年にかけて、人間の食品と同じクオリティで作ったペットフードが、一般的なドライフードと比較して消化性や腸内細菌叢・皮膚細菌叢に良い変化を与えるという論文が出始めました。このようなデータに基づき、ペットの健康寿命の延伸に貢献するペットフードを開発・販売していく予定です。

―― 「mydish」の商品は、特にどんな方におすすめですか?

今回販売するドッグフードは愛犬の健康全般が気になっている方、オーラルケアは口臭や歯周病、歯石が気になっている方にぜひ試していただきたいです。

mydishのブランドコンセプトは「ひと皿に、もっとできること」です。大切なペットのために、ペットフードにもっとできることを弊社は届けます。

若いうちの起業は「考えないこと」が大切。行動することで自分の価値を高める

―― 千代田CULTURE×TECHや千代田区に期待すること、あると良いなと思うサービスはありますか?

交流会には積極的に参加して仕事上のつながりを広げていきたいと思っています。
ブランドを作り上げるにあたっても、撮影・デザイン・サイト設計・広報・物流など、内製化できない業務が多くあります。多様な業種の方と交流して協業などができればいいなと思っています。

―― 千代田CULTURE×TECHのコミュニティには、学生や起業を検討している方もいるのですが、そういった方へのアドバイスや、自身の経験で役に立ったと感じることはありますか?

まずは行動してみることですね。
考えるほどリスクばかり気にしてしまい、行動できなくなってしまうことが経験上ありました。学生の間は失敗に対する許容範囲が大人と比較して広いと思うので、失敗を恐れずに行動してみることが大切だと考えています。実践しなければ見えてこないことも多くあるため、行動することは非常に重要です。

また、行動することで挑戦を後押ししていただける方々との出会いもあります。やりたいことや興味のあることに対してとにかく動いてみる。「気づいたらいつの間にかやっていた」くらいが良いと思います。

2024年中に販売開始予定。今後はカフェやホテルとのコラボや海外展開も

―― 今後の展望を教えてください。

オーラルケアサプリは2024年9月、ドッグフードは2024年冬頃の販売開始に向けて動いています。徐々にメディア露出も増えてきていますが、更に露出を増やして販売に向けた販路拡大に力を入れたいと考えています。

カフェやホテルのワンちゃん用メニューをプロデュースすることも考えており、実際にメニューやレシピを提供する契約も現在進んでいます。そういったカフェやホテルとのコラボも今後増やしていきたいです。

将来的には海外展開も視野に入れています。
明治ビジネスチャレンジの受賞者ということで、明治大学から2024年秋頃にアメリカの西海岸に研究員として訪問するお誘いをいただきました。ペット先進国であるアメリカのペット市場を調査して体感し、将来の海外展開につなげたいと思っています。

ペットフードも国の食文化によって入れるものが違ったり、法律も異なったりと気を付けることが沢山あるのでまだまだ先の話にはなりますが、アメリカやアジア圏に展開していけたら良いなと考えています。

―― 最後にこの記事をお読みの方にメッセージをお願いします。

弊社は、ペットの健康寿命をまずは5年延ばすことを目標に、事業展開しています。ワンちゃんを飼っている方は、是非お試しいただけると嬉しいです。弊社に興味を持ってくださる方がいらっしゃいましたら、是非協業のご連絡をお待ちしています!

お話を伺った企業

Sympal株式会社
2023年創業。機能性表示食品やペットサプリ、ペットフードの受託開発事業を行う。現在は機能性フレッシュドッグフードと犬猫用のオーラルケアサプリのブランド「mydish」の開発も行う。オーラルケアサプリは2024年9月に、ドッグフードは2024年冬頃に販売開始予定。