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日本政策金融公庫のスタートアップ支援…担当者が明かすその取り組み

「政策金融の担い手として安心と挑戦を支え、共に未来を創る」を『使命』に掲げる株式会社日本政策金融公庫が、スタートアップ支援に注力しています。東京都千代田区にある東京支店には、学生時代に感じた「中小企業支援を通じて地域を元気にしたい」という想いを胸に、お客さまと向き合っている担当者がいます。今回はその三上晃平さんへお話を伺いました。

株式会社日本政策金融公庫 三上 晃平 氏

学生時代に中小企業支援を志し、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫国民生活事業)へ入庫。大阪や新潟の支店で勤務し、営業活動を通じて地域の実情にあった支援など様々な経験を積む。東京支店へ異動後は、国民生活事業 融資第三課にて千代田区をメインにスタートアップ支援や事業承継支援などに従事している。

小口融資に強み…公庫の社会的な役割

―― 三上さんはどんな理由で日本政策金融公庫(以下公庫)へ入られたのですか

中小企業支援を通じて地域を元気にしたいと感じ、公庫に入りました。

きっかけは学生時代にあります。友人の家が酒屋を経営していたのですが、コンビニへ事業転換したことをきっかけに、繁盛するようになったのを目の当たりにした体験があります。その転換の過程で融資などの支援を受けていると聞いて、中小企業が元気になるとまちも活性化すると感じました。

その体験から、地域経済を前向きな方向に進める手助けがしたいと思い、それができる公庫へ入って、今に至ります

―― いま、その想いが実現できるど真ん中の部署にいらっしゃいますね。

まさにそう思います!やりがいを感じながら、日々業務に取り組んでいます。

―― そんな公庫様は民間の金融機関とまた違った役割かと思いますが、事業内容を教えていただけますか。

公庫は、民間金融機関が行う金融を補完することを旨としながら、国の政策などに基づいて中小企業、小規模事業者や農林漁業者等に対して金融機能を発揮している政策金融機関です。沖縄県を除く46都道府県に152支店あり、新たに事業を始める方、災害などによって生じた経営環境の変化に対応する方などの資金需要に応えて融資をしています。

主な役割をもう少しイメージしやすく言うと、第1の役割は「セーフティネット機能の発揮」です。地震や台風などの自然災害の発生、新型コロナウイルスのような感染症の流行やリーマン・ショックのような経済危機などの状況下で、着実な資金支援をしています。第2の役割は「重点事業分野の支援」です。創業・スタートアップ・新事業や事業再生、事業承継、海外展開やソーシャルビジネス等の各分野で挑戦する方々を支援しています。

そして、これらを行うために3つの事業を置いています。私が所属する「国民生活事業」では、小規模事業者や、創業者のうち特に創業前からアーリー前期の皆さまに対して、事業ステージや事業内容などに応じて「中小企業事業」や「農林水産事業」とも連携して支援を行っています。

国民生活事業の特徴は、大変多くのお客さまにご利用いただいていることです。事業資金のご融資先数は令和5年度末時点で117万先にのぼります。『2024年度版中小企業白書』によると、全国の中小企業者数は約336万者ですので、その約3分の1のお客さまと取引させていただいていることになります。また、信用金庫全体(254金庫)のご融資先数は約123万先ですので、それに匹敵する規模感となっております。

一方、1先あたりのご融資額は小口が中心で融資残高は平均877万円。ご融資先の9割近くが従業員数10名未満と、小規模事業者が中心となっております。金融機関全体の中小企業向け融資残高に占める、国民生活事業と中小企業事業のシェアは、両事業を合わせても5%程であることからも、民間金融機関が行う金融を補完する立場であることがお分かりいただけるかと思います。

公庫のスタートアップ支援とは?

―― 国民生活事業の中では、スタートアップに対してどのような取り組みをされていますか。

お客さまの事業ステージに応じた「金融支援」と「本業支援」を行っております。

「金融支援」では、創業前又は創業後1年以内の創業期の方々に対して、年間約2万6,000件のご融資を行っています。融資先には飲食店や理美容業など、地域経済を支えるスモールビジネスや、今まで社会になかった技術やビジネスモデルで急成長を目指すスタートアップが含まれています。 

創業期の方々への融資にあたっては、新規開業資金や資本性劣後ローンといった融資制度を活用しています。資本性劣後ローンは、金融機関の資産査定上、自己資本とみなすことができる点や期限一括償還で毎月の分割返済が不要といった点に大きな特徴があり、利用される事業者の方々にとって、民間金融機関からの融資の呼び水効果や資金繰りの緩和効果が期待されます。公庫のホームページに活用事例等も載っていますので、ぜひご覧ください。

「本業支援」では、創業に関する様々なセミナーの開催や事業計画のブラッシュアップにかかる相談対応などを行っております。他の政府系機関と連携したイベント等も開催しており、経済産業省が主催するイノベーションリーダーズ・サミットは、国内有数の規模を誇るマッチングイベントです。このサミットでは、大企業とスタートアップの個別商談会「パワーマッチング」と、公庫独自のピッチイベント「日本政策金融公庫スタートアップピッチ」を開催しています。

また、次世代の起業家育成のため、平成25年から「高校生ビジネスプラン・グランプリ」というイベントを開催しております。公庫の職員が高校等に出張して授業を行い、ビジネスプラン作成のサポートもしています。おかげさまで10年以上続いていますが、年々応募件数は増加しており、昨年度は5,000件を超える応募をいただきました。

最近では、アントレプレナーシップ教育への関心の高まりもあり、大学での出張授業にも力を入れています。

―― 融資の相談について、支援体制を教えていただけますか。

創業に関するご相談は、各支店の創業サポートデスク、創業支援センター、ビジネスサポートプラザ、スタートアップサポートプラザでお受けしています。

各拠点の役割を大まかにお話しすると、「創業サポートデスク」は全国152支店に設置しており、地域でお気軽に創業をご相談いただける拠点です。

「創業支援センター」は全国14か所に設置しています。各地域の創業支援機関などと連携し、創業前や創業後など様々なステージのお客さまへの各種セミナー開催や、高校生ビジネスプラン・グランプリの出張授業に対応しております。対外的に説明、発信する拠点ですね。

そして、「ビジネスサポートプラザ」は一歩踏み込んだ相談窓口です。平日夜間や土日も含めて、予約制で実施しており、じっくりと事業計画のご相談などに対応しております。拠点は3か所ですが、オンラインでのご相談も受け付けているので、全国のどの地域にお住まいのお客さまでもご相談いただけます。

さらに今年4月より「スタートアップサポートプラザ」を新設して支援体制を強化しました。内閣府が指定しているスタートアップエコシステムのグローバル拠点都市となる東京、名古屋、大阪、福岡の4か所に、スタートアップ支援に特化した専用窓口を設けて、支援機関と連携しながら各種セミナーの開催や予約制の相談を承っております。

――  今スタートアップに対して政府や行政の後押しもあります。起業を目指す方からの相談内容に変化はありますか。

東京都の傾向でいうと、コロナ禍前に比べて、IT系の起業のご相談が顕著に増えており、20代以下の若者や女性からのご相談も増えている印象です。

大阪と新潟の支店での勤務経験から、地域による違いも感じています。東京支店は政治・経済の中心である千代田区にありますので、世界を目指す方やキャリアを生かして大企業と取引されている方もおられ、ダイナミックにビジネスをやっている方の割合が多い印象です。

一方で、まちの飲食店や理美容業の方など地域生活に密着した企業様への支援も行っています。ご相談の内容は本当に幅広いです。

―― 支援先の事業が上手く進む要因は様々あると思いますが、共通して感じられることはありますか。

おっしゃる通り、上手く進む要因をひとつにとまとめることはできません。ただ強いて言えば、創業者の思考の柔軟性は大切ではないかと思います。スタートアップは当初想定したとおりに上手く進むことはあまりないと思います。難しい状況に直面することもあるでしょう。

そんなときに事業の核をぶらさずに、軌道修正ができるか。ピンチをチャンスに変えるとよく言われるように、環境に合わせて変化していける方は事業が上手く進みやすいのではないかと思います。

公庫として、CCTメンバーとして、共に未来を創る

―― 千代田カルチャーテック(以下CCT)のメンバーに参加された経緯を教えていただけますか。

公庫として、スタートアップエコシステムの一員として千代田区に貢献していきたいと思って、参加しました。システムの形成には地方公共団体や金融機関、スタートアップや大企業など様々な構成要素が必要だと思います。その一端を我々が担いたいです。

―― CCTで行いたい取り組みはありますか。

まずは金融に関する相談会ができればと考えています。区内の民間金融機関にもご協力いただき、相談会を共催できれば、参加者の皆さまにもメリットが大きそうです。金融機関によって創業支援に対する考え方は違うと思いますし、企業様も事業ステージは様々です。双方に幅広いつながりができれば企業様の事業ステージが変化しても、スムーズな支援ができるのではないかと思います。

―― CCTはアントレプレナーシップ教育の一環で、今年8月に学生アイデアソンを開催しました。このような取り組みと、連携はできるのでしょうか。

ぜひ連携させていただきたいです。高校生ビジネスプラン・グランプリで全国の多数の高校等で出張授業をしておりますので、そのノウハウを活かし、CCTの取り組みに貢献していきたいと考えています。

―― 高校生ビジネスプラン・グランプリは長い歴史があります。その応募経験のある方がのちに公庫へ相談に来るストーリーはあるのでしょうか。

グランプリ応募者のその後をすべて確認できているわけではありませんが、その中には創業された方もいらっしゃいます。その一例が、今年7月に上場された株式会社タイミー社長の小川嶺さんです。当時グランプリでファイナリストになれず、悔しい思いをされたそうですが、応募したビジネスプランから事業の内容を変えて、Timee(タイミー)の開発に至りました。その後順調に成長されて、創業初期から現在に至るまで公庫でも支援しております。

ちなみに、平成以降に上場された企業を調べたところ、約3割の企業が公庫との取引実績があります。令和4年に上場した企業に限って言えば、約6割ございました。

―― 幅広く融資されている結果ですね。

そうだと思います。ただ、見方を変えれば、特に国民生活事業では多くのお客さまにご利用いただいている分、私たちだけでは伴走支援まで十分にできていないケースもあります。スタートアップ支援に限った話ではありませんが、関係機関や支援企業の皆さまとの連携が必要だと感じています。

今年、公庫は果たす役割や目的を明文化するため『使命』を作りました。その内容は「政策金融の担い手として安心と挑戦を支え、共に未来を創る」です。皆さまと一緒になって支えていくというスタンスを大切にしています。

相談窓口には「創業の想い」を持って

―― 今後、起業を考えている方に予定している取り組みはありますか。

例年11月から12月ごろに、創業相談を専門とする職員へご相談いただけるイベント「創業相談ウィーク」を開催しています。事前に支店へお問い合わせいただければ、スムーズにご案内できます。もちろん、日頃から創業相談は各支店でも受けておりますので、公庫のホームページからご予約のうえ、お気軽にお越しいただければと思います。

また、創業に関する様々なセミナーを無料で開催しています。セミナー情報も公庫のホームページに掲載しておりますので、ぜひご覧ください。

―― 相談会を充実したものにするため、どの程度の準備が必要でしょうか。

近々ご融資までつなげるお考えであれば、事業計画をしっかりと立ててお越しいただいた方が良いと思います。ただ、相談の間口は広く取っているため、創業に関する一般的なご相談でも大丈夫です。強いて言えば、創業の想いを教えていただけると実現に向けたアドバイスをしっかりとできるのではないかと思います。

あと話は少し広がりますが、公庫では、事業をゼロから作る形態を「ゼロスタ」、事業を受け継ぐ形での創業を「継ぐスタ」と呼んでいます。「継ぐスタ」は既存の設備や技術・ノウハウ等の経営資源を受け継ぐことで、創業時のコストが軽減され、安定した経営を実現できる可能性があることから、選択肢の一つとしてご案内するケースもあります。

―― 神保町界隈では、継ぐスタの可能性があるかもしれません。

公庫では、後継者がいないことなどを理由に「事業を譲り渡したい」とお考えの方と、創業や事業拡大等に向けて「事業を譲り受けたい」とお考えの方をつなぐ事業承継マッチングを無料で行っております。是非ご利用いただければ幸いです。

―― 貴重なお話をいただき、ありがとうございます。では最後に読者の皆さんへ一言いただけますでしょうか。

スタートアップは新産業創出や様々なギャップの解消に取り組む挑戦者であり、その誕生と成長は、日本経済がより良い方向へ向かうための原動力になると確信しております。関係機関の皆さまと一緒に支援をしていきたいと思います。

お話を伺った企業

株式会社日本政策金融公庫 (東京支店)
国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫を前身として、2008年に政策金融機関として設立された。基本理念に「政策金融の的確な実施」「ガバナンスの重視」を掲げ、国内152の支店を拠点に、資金調達が困難なことが少なくない中小企業・小規模事業者や、気候変動などの影響を受けやすい農林漁業者に対して、融資や信用保険などで支援を行っている。